逆転の思想−151        目次
              水道公論2015年11月号


  高占有率製品の欠陥問題
  VW社の不正ソフト問題が世界中に広がっている。2014年5月に米国の大学が基準を大幅に超えていると発表し、EPAが調査に乗り出したのが発端で、今後どうなっていくのか誰も見通せないようであるが、様々な重大な課題を示していると考える。
 ソフトウエアにより排ガス基準の検査時にだけ排出量を抑えているということは、通常時に排ガス規制を超えていることになり、規制がどう運用されるのかによっても全然違った事態になるだろう。車の走行安全性に関わるものでないので厳しい運用はないだろうが、ソフトウエアが改善されるまで、規制違反の車を走らせないことになる可能性もある。一方、環境問題にあれだけ厳しいEUが不正問題を2013年に把握していて放置していたらしいこともある。
 検査時に排出量を抑えるということはそういう運転走行ができることであろう。常時排出量を抑える走行にした場合、排ガス浄化装置が持たないとすると頻繁に交換しなければならなくなるが、これですめば燃費の増分と交換費用を会社負担することになるだろう。それでも費用負担は大きいが、エンジン自体を変えなければいけないなどとなった場合は対処は非常に難しくなる。
 米国EPAはVW社に最大2兆円程度の制裁金を課す可能性があるとしている。しかしガソリン車ばかりの米国市場でVWの比率はは2%程度しかない。
 違法ソフト対象とされる1100万台の価格を200万円とすると22兆円となり、この制裁金は販売額の1割内外となる。昨年VW社は過去最高の27兆円の売り上げがあったので、これ以上の負担になっても、販売台数が維持できれば復活できると思われる。ただし、現時点で対象車の販売は止めざるをえないだろうから、速やかに後継の車を市場に出さないと販売台数はどんどん落ちてしまう。
 多額の出費と言えば5年前にメキシコ湾で原油流出事故を起こした英国BPの事故処理や和解金の総額は8兆円を超えるらしい。欠陥問題は対象品目の市場占有率が高ければ高いほど大きくなる。つい最近のB787の蓄電池発火の問題も、まだ製品納入の初期段階であったから航空機の運航停止も大きな問題にならなかったが、この欠陥が数年後にでてきたら、飛べない飛行機が多数にのぼり、多くの航空会社の運行がめちゃめちゃになっていたであろう。同じ機種の保有比率が大きくなると欠陥リスクが相乗的に増す。
 欠陥問題はドイツ車が先行しているとされる部品の共通化のリスクも浮き彫りにする。 共通化によって同じ部品が広範囲に使われば使われるほど、欠陥問題が浮上した場合の影響が大きい。何万個となれば生産規模による価格変動は小さいのであるから、リスクを考えるとある程度分散した方がいいと思うが。