逆転の思想−149        目次
              水道公論2015年9月号


  底質の変化
 下水道の普及に伴い一時生活排水によって相当汚れていた各地の河川水質が改善されてきた。一方で、生態系にとってけっこう重要な底質の変化はどうなっているのだろう。
 底質の変化を外界から捉えられるものとしてユスリカの発生がある。幼虫は釣り餌になる赤虫で底泥の有機物を食べて成長する。琵琶湖南湖では確か1980年代、建物の壁にびっしり張り付くなど大発生していた。人に街を与えるものではないが、大発生は気持ちのいいものでない。筆者が県庁に在籍していた1990年代には目立たないくらいに発生量は減っていた。
 下水道の整備によって、底泥への有機物の降下が少なくなり、性状が大幅に改善されたものであろう。南湖の水質はクロロフィルaは減ってきているものの、BODの減少は僅かであり、CODは僅かずつ増えていて湖水の水質はあまり変化がないように見えるが底質の状況は相当変化しているように思われる。
 下水道の整備進展によって一時的に大発生する場合がある。市街地の小水路で、家庭下水によって汚れてユスリカも住めない状態だったのが、水質が良くなって生息できるようになり、たまった有機物を食べて大発生に至る。その後、底泥の状況が改善されて発生量が減る。表からは分からない生態の変化がある。
 羽田空港の南に結構広い干潟があり、数年に一回皆で出かけている。大潮の干潮でも水深20cmくらいと底質が顔を出さない。多摩川は上流から流れてくる水の大半が羽村などで取水されるため、晴天時水量の6〜7割が下水処理水という状況になっている。冬を東京湾で過ごす鮎にはいい環境となっているようであるが、河口部の底質では生物相が貧相になっている。ここが以前、名の知れた潮干狩り場であったということが信じられない。
 やっと見つけたアサリの稚貝が糸を出してバカ貝にしがみついていて生息条件が悪化していることを示しているようである。貝殻が厚い外来種のホンビノス貝がある程度見られる。アサリだけでなく多摩川河口では干潟の生物が少ないのが気になる。
 番州干潟の潮干狩り場ではけっこうよそからアサリを持ってきて撒いているので、生態の把握は難しいが、数年に一度アサリが大発生することがある。管理している人に聞くとどうも稚貝の時に嵐などで流されたりすることがない年のアサリは大発生するようである。また、礫などを詰めた袋を干潟に置いてアサリが良く育つ環境形成に成功している例もあり、稚貝が流されないような底質であればアサリの復活も望めるように思える。
 環境の大局的な変化を捉えていくためには継続的な各種の調査データの積み上げが大事であるが、あまりやられていないようで、近代化以降の我が国の弱点のように感ずる。