逆転の思想−95        目次
              水道公論2010年 10月号


  景気対策と政府債務
 代わったばかりの総理大臣の椅子をどうするかでもめているうちに、円高とそれに伴う株安がどんどん進んでいる。リーマンショック以来、世界中で景気刺激策が取られ効果を上げてきたが、息切れの状態になりつつあり、今後の経済見通しが暗くなっていて、他よりはよく見える円が買われるようになった。
 欧州では政府債務が大きくなりすぎたとして財政緊縮論が強くなっている。
 米国のバーナンキ連邦準備理事は景気刺激策の継続を求めている。議会は貸し渋りを避けるため金融引き締めは困るものの、財政再建派が主流のようである。
 欧州中央銀行のトリシェ総裁は金融引き締めを避けつつ、政府や民間の債務削減をうたっている。政府の債務削減が将来の増税懸念を解消させ、民間の消費支出が増えるとしている。
 この際、日本の失われた10年の原因について、過剰な政府債務整理を棚上げにしたためだとしている。こんな話があるのだろうか。 政府債務の削減は、医療や公共事業などの政府支出の縮小、公務員給与カットや医療費負担、消費税増税など半端でない国民負担の増大でしか実現できない。いずれにしろ、経済を減速させるものであり、大きな痛みをもたらす。経済の縮小など厳しい痛みをこらえていけるのだろうか。橋本内閣時代ではゆるい緊縮経済で景気が大きく落ち込んでしまった。
 痛みに耐えられないだろうからまた財政出動に至り、どうも欧米の今後は、これまで無策だとさんざん叩いてきた、日本と同じ失われた時代をたどるような気がする。
 失われた10年が20年になりつつある日本経済は、公的債務がとんでもない額にふくれあがり、800兆といわれる個人預金を追い越す勢いになっていて、本来なら、ハイパーインフレ状態になるような状況なのに、ゆるやかなデフレが続いている。国の不安定な財政状況に関わらず、経済が他国より安定しているため、国際金融のとりあえずの避難場所として、これも円高要因となっている。
 デフレは為替を操作している中国などの安価な商品や農産物の流入によるものと考えられ、円安になれば吹っ飛んでしまう気がするが。一方、このまま物価や金利の安定が続くとなると、大きな痛みを伴う財政健全化は進まないだろう。
 中国のように外国債券を買えば円安になる。日銀からお金を借りて様子を見ながら外国債券を買えば、利子はつくし、将来円安になったとき戻せば損はしないし、円高の緊急避難としていいように思うが。
 火山のマグマが溜まっていくように、政府債務が大きくなればなるほど、安定が崩れたときの混乱は大きくなるのだろう。
 大きな痛みをこらえなければいけないのは、そんなにひどくない時なのか、それとも戦時のように経済がめちゃめちゃになったときなのか。