逆転の思想−90        目次
              水道公論2010年 5月号


  家計の金融資産
 
 日銀が3月に発表した資金循環統計速報では、2009年末の家計の金融資産残高は1456兆円で前年に比べ35兆円、2.5%増となった。増えたものの過去最高であったリーマンショック前の2006年末の1526兆に比べると約100兆円少ない。
 家計の株式、投資信託の額を資料から計算すると、2003年末に133兆であったものが、2004年末に153兆になり、その後急激に増えて2006年末の260兆にもなったが、急減し2008年末に半分の131兆まで減ってしまい、また150兆まで少し復活した。2004年末の家計金融資産残高は1429兆で、2009年とほぼ同じである。現金・預金は2004年末で780兆円、2009年末で804兆円で微増である。株式などの価格変動によって資産残高が動いたもので、不動産と同様に見ると、ものの価値は変わらないし、2006年が増え過ぎと思えば被害がないところであるが、ピークの半分になってしまったことは多くの人を株とか投資信託から遠ざける結果となったのだろう。
 一方、内閣府の国民経済計算によると最近5年の家計の不動産資産は2003年の813兆円から2008年の764兆円へ49兆円減っている。減り方は一時ほどでないがピークであった1990年1486兆円の半分に。
 かたや国債残高は着実に増え、2004年末で705兆だった国債等(公的金融機関の発行分も含む)が2009年に827兆となった。家計の現預金高を超えてしまっている。 増え続ける国債は金融機関が引き受けているようで、金融機関の国債保有シェアは、2004年末では60%くらいであったのが2009年に67%、額で555兆になった。家計の国債保有は2004年末に20兆くらいで、2006年まで急激に増えたが2009年は少し減って35兆となっている。
 増えすぎてすでに高リスクとなっている国債を金融機関が支え、その金融機関を殆ど無利子で多額のお金を預けている家計が支えているという構図になっているように見える。 国がこれほど借金しているなかで、国債を買うしか能がない金融機関と株式や外国債券のリスクが怖い家計部門が経済の安定をもたらしている感がある。
 利率がゼロに近い巨額な預金について、本
来2%もらっていたと考えると毎年16兆円、5年で80兆円家計が損している計算になる。この家計の損が、国が払う利子が減ることに寄与しているなら、その分税金が減っていることで相殺といえるのだろうか。金融資産を保有する高齢者層から税金がその分少なくなる稼ぎ手に還元されていると見ることもできる。
 家計の金融資産残高が1456兆円あるといっても、保険・年金準備金が400兆円で、現預金は800兆円であり、もうすぐ、預金を全額国債に回しても消化できない段階に突入しそうな気がする。年金資金の運用を国債中心にさせられると、利子が少ないので年金会計が破綻しかねない。国債が買われなくなると、値段が下がり、長期金利が上がる。
不思議なバランスが少し崩れると大きな変動が気になる。これがいつ起こるのだろうか