逆転の思想−87     目次
              水道公論2010年 2月号


  現場目線の考慮
 
最近の政治・行政では市民の目線に立つことが強調される。一方で、企業では重要視されている現場目線の配慮はどうだろうか。
 22年度予算から、社会資本整備総合交付金の制度が実施される。事業主体の地方公共団体が自由に必要な事業を実施できるようにということである。
 一方で、スーパーコンピューターを巡る論議などがあった。仕分け作業で削られてしまったことに、科学者などから批判の声が上がっている。これを聞いていると地方に任せるという方針と正反対の感がある。
 いちいち個々の予算について、よくわからない人々が細かいことまで指図することはどうなのだろうか。科学技術予算の総額だけ決めて、あとは担当の部署でよく分かる人が現場目線で執行内訳を考えればいいのでないだろうか。事業の成果が吟味されるようになれば、執行機関も効率性、有効性に配慮するであろう。その世界でない人が細かく内訳を決めても、執行のチェックがなければ同じことである。細かく決めるのは、自由にすれば無駄なことをするとして、できるだけすべてのことにお金という強力な権力を持ち続けたいことだけでないだろうか。
 給料で考えた場合、希望した内訳通りに支給されても、食費、被服費、教育費、家賃、光熱費などと細かく規定された内容で使わなければならないと、すごく使いにくく、効率よく使えないものになる。
 急遽制度化される社会資本整備総合交付金の制度であるが、地方にとって使いやすいものとして、公共団体の意向で好きなところに使えるものといううたいこみが伝えられている。しかし現場目線に立つと、事業を効率よく、円滑に実施するネックはけっこう別のところにある。
 その一つが予算の厳密な単年度執行にある。事業実施段階では、お金が余ったり、足りなくなったりして面倒な繰り越し手続きなど、その後始末に多くの人が苦労している。いい仕事をして、お金を最も効率的に使おうとすればするほどこうなる。工事で、現場に合わせて費用が動くのは当たり前であり、これまでは逆にお金に合わせて仕事をしなければいけなかったため、足りなくなると工事請負者が我慢させられたり、余ると期間もないのに無理して消化を迫られてきた。
 お金を年度間に動かせるようにすることは単に手続きだけのことであり、本質的な問題点はなく、すでに実施されている交付金もある。調査や研究開発でも複数年度にまたがるものが多く、お金を年度間で動かしていいとなると大変効率的になる。
 下水道事業では工期が1年では終わらない建設工事のため、年度にまたがる全体設計承認という便宜的措置がある。年度末の内装仕上げ工など特定の工事集中や、4月にすぐ工事着手できない端境期対策のためにもこの仕組みを積極的に使ってほしいところであるが、新制度で継続し、弾力運用をしてもらわないと事業執行がしにくいものになってしまう。
 制度変更にあたり、現場の苦労を考えた、生きたお金が使えるようにしてほしいものである。