逆転の思想−144        目次
              水道公論2015年4月号


  美術品の大きさ
 時々歴史ある日展(日本美術展覧会)を見学に国立新美術館に行っている。公益社団法人日展が主催していて、1907年に始まった文部省美術展覧会から形態をいろいろ変えて百年以上も続いている。日展という名前になったのが1946年で、平成25年は第45回となった。
 ところが書道部門の「篆刻」の2009年の審査で、有力会派に入選数を事前に割り振る不正が行われていることが明るみに出て、問題となった。他の部門でも日展を支えるとされる有力な芸術会派に属していないとまず入選しないと言われていた。このためか平成26年から組織を改正して改組日展という名が付いた。
 広い会場で驚くのは作品の大きさである。皆畳2畳分くらい、絵の大きさである百号ないしそれ以上ある。絵が大きいと迫力が増すので、大きく描いて応募しないといけないというのでこうなったらしい。
 平成26年だと騒動のせいで少し減ったらしいが、日本画で応募が約5百、入選が205,洋画は2千も応募して展示640であった。新規入選が日本画28,洋画66と狭き門になっている。このうち特選は日本画9,洋画10、また出品委嘱が日本画31,洋画17で、前年の特選者が無鑑査で出展され、その数日本画9,洋画10。
 広大な新美術館の多数の展示室いっぱいに展示されていて、見て回るだけで足が疲れる。美術館などで有名画家やテーマの特別展が開かれるが、日展展示数はそれらより一桁以上多いと思われる。
 日展に応募するには他の展覧会などで実績を積まないといけないそうなので、選りすぐりの作品ばかりが応募出展されていると思われ、展覧会が終わったあとこのような大きな多数の絵の行方が気になる。
 皆見事な、描くだけでも大変そうな絵を一所懸命描いていているのだから展覧会の後、どこかに飾ってほしいし、将来お宝になるかもしれない。ビル、公共建築、病院、ホテルなどではこんな大きな絵を飾ることはある程度可能であろうが、一般家屋では難しい。重いであろうから地震の時も心配になる。昔見た、ダリの時計が曲がった「記憶の喪失」という有名な絵は大きく見えるが B4くらいの大きさだった。
美術品のネットオークションでは100号くらいの大きな絵も出品されているが、美術絵画のお店にあるのはやはり、新聞紙片面くらいより小さい絵画が大半である。小さい絵で募集して、優秀作だけあとで大きく描いてもらったら、その後の行き先も増えると思うが。
 ともかく、美術館などに飾るのはいいが、日本のなんでも小さいところに押し込めなければならない社会環境や住宅事情に合わないような展覧会であり、素人目で感ずるのは芸術の名のもと、大きな損失があるように思えることである。