逆転の思想−142        目次
              水道公論2015年2月号


  蔵の価値
 絵画や骨董などの鑑定番組が好きでよく見ているが、建て替えなどで古い蔵を整理して出てきた掛け軸、絵画、陶器、古文書などがけっこう多い。良く保存してきたと思える大きな屏風などもある。筆者は焼け野原になってしまった東京で育って、住宅難をもろに体感させられて生きてきたので分からないが、日本の伝統的な普通家屋というのは、8畳間が4間、田の字型に配置され、そのまわりに廊下、押し入れ、納戸、玄関、台所、洗面所、土間などが配置された120〜140uくらいの広いもので、蔵も普通のようである。田の字型に配置したのは、結婚披露宴などでふすまを取って大広間にするためであった。大きな蔵が作られたのは火事が怖い、大事なものをしまうだけでなく、冠婚葬祭や漬け物、保存食などの基礎食料作りなどを家で行ったので、多数の皿、お椀やお膳、餅つき臼、樽などの道具その他いろいろなものを持っていなければいけなかったこともあるのだろう。
 現在、多くの人が住む都市のマンションの広さは60〜80uくらいであろうか、居住するだけの空間しかとれず、押し入れは半間幅で総計2間くらい。そうなると寝具や冬の衣類だけでいっぱいになってしまう。
 掛け軸をかけられる床の間も、絵をかける壁もない家が多いので、美術品を楽しむことも難しい。本・雑誌や結婚祝いなど各種引き出物も整理しないといけない。
 21世紀水倶楽部では高度成長時代の職場に関連する思い出の写真を募集しているが、応募が少ない。どうも引っ越しなどで持って行けず捨ててしまうことが多いようである。
 一昨年の暮れ、母親を見送り、老人ホームの居室を整理することになった。家具、寝具、飾り物、思い出の品などあまり量は多くなかったが、子供達で引き取る余裕が少なく、高価な介護ベッド、絵画や飾り物、電化製品などは老人ホームに寄付し、結局相当のものを処分することとなった。20年前に両親が老人ホームに入居するときに家の整理をして、ちょうど単身赴任になったので、食卓セット、こたつなどの家具や電化製品を送ったり、沢山のものを処分したので少ないはずであったが。結局2回に分けての整理で、その分負担は少なかったのだろう。広い家に長らく住んでいた親が亡くなってその整理をするとなるとすごい負担になるであろうし、失われるものも多いのでないだろうか。
 宅地が広い地方部で家の建て替えの際など、蔵の街として保存が盛んなところは別として、蔵を壊すケースが多いようである。
 蔵に昔の民具、書画骨董、文房具など工芸品、手紙などの古文書が眠っていてその恩恵に預かっている今であるが、蔵が消えつつあり、収納庫が狭い状況では、後世の代になって高度成長時代あたりのものが何も残っていないというようなことになるような気がする。収納空間は必要であり、そのための住宅面積は広くしていかなければならない。