逆転の思想−138        目次
              水道公論2014年9月号


  ITと大都市集中
 10年以上住んでいる団地に中規模のスーパーが入った小さなショッピングセンターがある。引っ越ししてきた当時、その隣にATMが6、7台入った都市銀行の建物があった。独立した建物なので昔は窓口のある銀行支店だったと思われる。数年前、その建物が閉まり、かわりにスーパーの中に2台の銀行ATMが置かれた。この2台で長い行列ができるということも少なく、充分間に合っている。このような変化はIT進歩によって振り込み、支払い、送金などが電子決済になり、窓口に行く頻度が大幅に減ったためであろうか
 以前街中の一等地にでんと構えていた銀行支店が雑居ビルの一角に入るというようなことになっている。。銀行は信用が大事なので昔はステータスシンボルが必要だったが最近は情報化によって銀行の信用確保のための必要性がなくなったのか。ITによって裏通りでも店の検索がすぐできるので、目抜き通りに立地するという価値が減ってきているように感ずる。
 最近各種の通信販売を利用することが多くなったが、多くは地方都市の会社で、衣類雑貨は香川県、園芸用品は栃木県、特定銘柄のワインは大阪市というような具合である。 買い物に行く場合は便利な場所にあって、店構えの良い方が有利であるが、通販では店がどこにあっても商品情報が的確で、早く、確実に送られてくればいい。
 人が遠くから集まらなければいけないのが会議であるが、最近はIT会議システムが発達してきて、あたかも同室で議論するような雰囲気にまで進んでいる。
 通信費も以前は遠距離の電話代は非常に高く、大都市から離れた地方はその分不利であったが、今はメールで連絡ができるので悪条件が改善されている。
 このような傾向から、IT進歩によって地方企業の不利なところが大幅に改善され、不動産コストが高く、通勤時間も長くなる大都市に比べ、地方都市の企業活動の優位性が増していると思えるが、実際には東京圏に人がどんどん吸い寄せられている。ただ東京圏でも周辺部は地方と同じような状況にある。
 IT進歩によって需要が非常に限られた商品やサービスでも少数の消費者が見つけてくれて成り立ち、増加しているロングテールというような商業形態も大都市でなくてもいいような気がするが、消費者の気持ちの移り変わりを探るためには大都市でないとだめなのだろうか。
 住んで生活するとなると、医療、教育などの問題が出てくる。教育はITの進歩により大幅に改善可能であろうが医療はなかなか難しい。
 大震災のリスクを考えると地方分散をしなければいけないが、国家公務員給与で東京は手厚い都市手当が付くというような大都市集中を大きく加速するものとなっている。地方分散を本気で考えるなら、給与、税制など基本構造を改善していく必要がある。