逆転の思想−137        目次
              水道公論2014年8月号


  遺産としてのインフラ
 富岡製糸場が世界遺産に登録されていいことであるが、日本では歴史の割に文化遺産が残っていないと感ずる。石造りのため長く残り、街中至る所に文化遺産があるような感がある欧州と違い、木造の建物ばかりで地震が多いため保存されにくい特性があるのは分かるが、明治以降に造られた建物、鉄道施設、船などもけっこう消えて行っている。
 ローカル鉄道の線路、駅など我が国では使われなくなるとすぐに消えてしまうが欧州ではけっこう保存されている。
 英国の鉄道マニアなどが運営する保存鉄道は2百以上ある。一度湖水地方で観光列車に乗ることが出来たが、車庫を覗いたら、古い立派な蒸気機関車などがいくつも、ぴかぴかの状態で待機していた。
 我が国は地形が急なので山間では鉄橋の管理が難しく、線路勾配があるため安心して管理できないことがあるのだろうか。一方、平地ではすぐ道路などに転用されてしまうことになる。
 数年前に取材した函館港は1988年まで運行していた青函連絡船が一隻保存されていて良かったが、肝腎の連絡船から貨車を陸上に移送する接岸部のレールなどは消えていた。
 一昨年に訪問したフランスのミュールーズはライン川が流れるスイス国境に近く、TGVも停まる大きな街であるが、駅前を運河が通っていて、船溜まりがあった。
 駅の上下流約1kmくらいの所に各々落差2mくらいの操作員がいる閘門があった。数日滞在して運河沿いに歩いたりしたが、航行する船は一隻しか見なかった。この運河はライン川からソーヌ川を通ってローヌ川に至る、ライン川と地中海を結ぶ224kmもの長さを持つ。貨物船や観光船が連なって航行するライン川と違い、蛇行が激しく、通過に長時間かかる閘門が多く貨物輸送に使えないのか、レジャー船が時々通るような感じで、閘門が多いなど管理経費も相当かかると思われるが時代遅れになっても動かしている。
 下水処理場でも今後文化遺産として保存すべきものが増えていく。我が国最初に活性汚泥法を採用した名古屋市の掘留処理場や、東京の三河島処理場の古いポンプ、パドル式設備などは保存されているが、比較的規模の小さい処理場や消えつつある高速散水ろ床法の施設はどうだろうか。
汚泥脱水施設も昔のものが消えていて残念である。真空脱水機、縦型フィルタープレスなど、どこかで見ることができるといいのだが。
 せめてできるだけ多くの画像や資料を残していく必要があろう。NPO21世紀水倶楽部ではこういう画像資料を募集している