逆転の思想−132        目次
              水道公論2014年3月号


  職と教育
 1976年と相当昔になるが旧ソ連時代、パイロットが最新鋭戦闘機で北海道に亡命したことがあった。機体を返却したことの他に印象に残っているのがパイロットの基礎教育が中学校くらいのレベルであったこと。自衛隊では大学教育の上にパイロットとしての訓練をしている。
 パイロットはいわば技能職と考えられ、こういう仕事において一般教育で大学などの高等教育を受けると一般常識レベルは高くなる一方、早めに職業教育を受けると勤務年数を長くすることができ、どちらがいいかということがある。
 時代とともに仕事に必要な教育レベルの要請は変わっていく。工場や農作業では昔は力仕事が多かったが今ではIT操作が多くなってきて,必要な基礎学力レベルは上がっている。しかし学校教育を受けたからといって,現場ですぐ一人前の仕事はできない。様々な現場訓練をしてやっとできるようになる。
 少子化で学生が来ない大学が増えているというので,日本の大学進学率が高いのかと思っていたらそうでなく、OECD各国の2010年のデータで日本は51%と平均62%より相当低かった。進学率の高い国はオーストラリア96%、アメリカ74%、韓国71%など。日本より低い国はスイス44%、ドイツ42%など。
 ドイツでは大学教育を受けたい学生は小学校5年くらいからギムナジウムという特別の学校に入り別な教育を受け、試験に合格しないと大学には入れない。つまり10才くらいで大きな人生の分岐点を過ぎることになる。最近は見直し論が高まっているそうであるが。
 産業立国で学力程度が高いと考えられる日本とドイツの大学進学率がずいぶん低いのに驚くが、日本では短期大学や専門学校があり、これを入れると進学率は8割くらいになるそうで,ドイツも同様であろう。むしろ日本の課題は相対的な学力の低下である。
 産業革命以来、様々な技術の進歩によって人の作業がどんどん機械に変わりつつある。最近では自動車製造の溶接、組み立てなどがロボットに取って代わられている。
 自動車の運転ロボットも現在急速に開発が進み10年以内には普及しそうである。人口密度の低い地域や高齢者の移動など非常に便利になると思われるが、各種運転手の仕事が少なくなる。仕事を失う人々は苦労が多いだろうが,社会全体で考えると、医療、介護、農山林管理など人手が足りないところに振り向けることができる。世の中に必要とされる職業が変化する場合、円滑に次の仕事につけるようにしないといけない。こういう場合に教育レベルが重要となる。急激な変化で困る人が出ないよう、基礎教育と専門教育の質を考えていかなければならない。
勉強する側の個性もある。筆者の大学時代、最初2年基礎課程は全然面白くなかったが、専門課程の後半は面白く打ち込めた。逆の人もいる。興味を持って学習できる環境にすることも大事である。大学などのラベル尊重を低くして、様々な教育課程を自由に選べ、科目毎に客観的な評価をもらえ、それが求職で尊重される社会にしていくことが良いと考える。