逆転の思想-126        目次
              水道公論2013年8月号


  万年確率の災害
 原子力規制委員会の新安全基準骨子案は、活断層の調査対象期間を「13万~12万年前以降」から「約40万年前以降」へと範囲を拡大した。原子力発電所の下部に活断層があるかないかで存続の判断をするそうである。これは地震のことを考えてであるが、こういう長期で見ると氷河期、小惑星衝突、大噴火など世の中がいかにはかないものか思い知らされる。
 まず氷河期のことがある、先の氷河が終わったのは1.2万年ほど前であり、現在は間氷期にあたる。過去数百万年は、4万年から10万年の周期で氷期が起こっている。海水面はそのたびに変動していて氷河期であった2万年前は今より百メートル低く、9千年前は20m低かった。過去3千年の海面上昇は年0.1~0.2mmであったが、100年前からは年2mmになり、今後さらに加速されると予想されている。再び氷河期に入ったら、大変なことになるが 間氷期に入って1万年ほどなので、近未来を考えると、火山の大規模爆発の方がリスクが大きいと思われる。
 史実がよく記録されるようになってきた西暦千年以降、噴出量が10~20km3で、世界中に異常気象をもたらす大規模噴火が約2百年に一度のペースで起きている。上空を微細な火山灰が覆い、日射量が不足して、農作物が育たなくなる。
 有名な西暦79年のヴェスビオ爆発はポンペイを消滅させたが、規模は4km3とそれほど大きくなかった。
 ヴェスビオ火山とポンペイの距離は約8km。これは桜島と鹿児島中心市街との間とほぼ同じである。火山の場合前兆が観測できるので避難はできるだろうが、この程度の噴火が起きたらひどい火砕流がおそう可能性があると考えておいた方がいいことになる。
 1783年のアイスランドのラキ火山爆発の噴出量は14~16km3で、大量の溶岩と火山ガスの噴出により、欧州を中心とした世界各地で異常気象と飢饉が発生した。
 この頃日本の近世では最大の飢饉とされる天明の大飢饉(1782年~1788年)がおこった。東北地方が特にひどく、ラキ火山だけでなく浅間山の噴火やエルニーニョの影響もあったとされる。江戸時代は寒冷な気候が続き、幾たびか飢饉が発生した。
 紀元前1628年 のエーゲ海、サントリーニ島の噴火はとてつもない津波でミケーネ文明を壊滅させ、噴出量60~100km3とされる。気候変動も世界規模で起こり、年輪調査で年代が割り出された。
 9万年前の阿蘇カルデラの噴火では、火砕流が熊本県と大分県の大半と宮崎県北部を覆ってしまった。噴出は600km3ととんでもない量であったらしい。
 大噴火があって、突然寒冷な気候になったら、おさまるまでの数年間、温室や暖房のためしゃにむにエネルギーを生み出さなければならない。10万年に一度の可能性に対する安全性など言っていられない状況になるだろう。
 豪雨では時間百ミリを大きく超えることは原理的におこらないらしいが。