逆転の思想−123        目次
              水道公論2013年5月号


  戦略的実行の必要性
 いい戦略は、与えられた条件の特性を読み取り、効果的な対策をうつことで、柔軟な発想と実行可能性の判断力が求められる。状況により、長期的な視野が必要なものや短期で判断しなければならないものなど優先順位を適切に判断することも重要である。
 随分前になるがペルーの日本大使館で大規模人質事件が起きたとき、当時のフジモリ大統領が秘密裏に地下トンネルを掘り、ゲリラを急襲して解決したことが思い起こされる。もし今の日本でああいうことが起こったら、奇策は全く出ず、仮にトンネル案が出てきても、危険性が高いとか、他に方法があるのでないかと小田原評定で、時間だけどんどん過ぎて解決に数年を要していたであろう。
 報告、連絡、相談(ホウレンソウ)をしっかりやることが官庁など組織に必要とされているが、権限が各担当部門にはっきり降りていなくてあいまいなところでは、組織の人間を自主性のない機械人間として扱うようなこととなり、この上トップが現場の性格や手段の可能性を知らない素人であると、無責任体制の極みということになる。
 筆者の若い頃は、情報伝播が便利でなかったため、横と上にあまり上げることなくいろいろな仕事ができて今を思えばありがたい。
 阪神淡路震災と東日本震災と決定的な違いは、阪神では地震が収まった時点で、死亡者の大半が既に亡くなられていたが、東日本では大半の人が、健全な状態であった。
 阪神は予測がつかない直下型であったのに対し、東日本は構造的なもので、予測が十分できたものであり、事実地震の何年か前にこういう津波が来ることが公的機関の地質調査で分かっていた。また仙台平野はこれから4百年は大津波が来ないことが示されていることである。災害の性格が異なるので、違う対処が必要となる。
 大津波の後、急遽設置され、未来に向けた骨太の青写真を描くとした東日本大震災復興構想会議の提言では復旧の最重要素である住宅復興について、やみくもに皆高台に持って行くべきという、全く戦略的でない方向性を示した。建物を高層化して津波に強い街づくりを方策の1つとすることはその後国の復興対策本部でまとめた復興の基本方針には入っているが。
 復興構想会議提言の基本的な精神は、東南海地震被災予定地域など広い範囲にも当てはめなければならないもので、そうすると東京の下町や名古屋西部の広大な低地に住む百万人をはるかに超える人々に、遙か遠くにしかない高台に早期に移転すべきと言っていることになる。
 今や仙台平野は、国土が狭小な我が国で海溝型地震による津波に関して東日本地域で最も安全で貴重な地域になっているのに、その価値を無視していることもある。
 現在最も優先すべきことは、想定される東南海地震津波に耐える街づくりにいかに早く着手するかということである。大胆な戦略的取り組みと実行が求められる。