逆転の思想−121        目次
              水道公論2013年3月号


  路面電車の立地
 ドイツなど欧州を旅行してありがたいのはトラムが便利なことである。10万人くらいの街でも走っていて、けっこう頻繁に運行しているし、乗客も多い。一台逃しても、待てる範囲で次のが来るのでありがたい。日本の地方大都市の地下鉄より便利なくらいである。数十万人の大都市では地下鉄もけっこうあり、トラムと両方使えるが、トラムは道路を走っているので景色も楽しめるし、どこにいるのか分かりやすく、切符購入など利用ルールに慣れれば安心して乗れる。またレールがあるので存在がわかりやすい。
 一方日本では、県庁所在地であっても公共交通機関が便利といえず、乗りにくい。最も運行頻度が少ないとも思われるのがJRで、乗るなと言うような感がある。
 運転間隔は乗客の利用志向に大きく影響し、10分くらいが一つの目途のような気がする。駅に行くのにだいたい10分くらいであれば歩くが、10分を超える場合はバス利用が多くなるのでないだろうか。運転間隔も10分を超えると気軽に利用したいという気分でなくなる。筆者が以前都心から1時間圏に住んでいたとき、昼間の電車の運転間隔が12分で、乗車時間のこともあったが休日にちょっとでかけようと気分にはならなかった。地下鉄銀座線がはじめて営業したとき、運転間隔はサービスのため3分だったそうである。現在こんな運転をしている公共交通は少ない。
欧州でトラムが健在な原因の一つとして、市街地の人口密度が高いことが考えられる。今やグーグル地図で世界の街を見ることができるが、欧州では街中は殆ど集合住宅などのビルで埋まっている。
人口密度を比較すると戸建て住宅は100人/haに対し、中層住宅は300人/haと3倍違う。トラムの集客圏を同じとすると、中層住宅地域は3倍の人が乗ることになる。トラムの一人あたりの固定費もずっと安くなるし、運行回数も多くすることができ、これによって利用率も大幅に上がる。
トラムが存在できる要素として幹線道路が比較的広くて、渋滞がないこともある。日本の多くの都市で、自動車交通量の急増によって渋滞が常態化し、方策の一つとして線路が街中から追い出されたことがある。
日本の都市で戸建て住宅の比率が高いのは一つには地震国である我が国で木造でない建物は壊れやすく、高額であったことがある。しかし、建築資材の進歩で、中高層の建物が十分耐震性があることが示されてきている。
 もう一つにはずっと続いた土地バブルで土地を持つことが最も効率の良い資産増加策であったことがある。
地方中心都市でも都心にマンションが建ちだし、高齢者にとっていいが、一方で商業機能が駐車場が広く取れる郊外にいってしまい、旧市街がシャッター街になっている所が増えている。
街中の中高層化が進み、公共交通機関が便利な足となり、高齢化に対応し、エコにつながる社会になることが望まれる。