逆転の思想−118        目次
              水道公論2012年11月号


  自己責任と管理瑕疵
 我が国では公共施設に絡んで事故が起こって裁判になると管理責任を厳しくとられることが多い。昔法曹関係の人と話したとき、被害者をできるだけ救済しようとの見地から管理瑕疵を厳しくしていると聞いた憶えがある。次から次へ電車が来る地下鉄ホームで乗り換えのため階段と線路に挟まれた狭いスペースを急ぐ人が多い中で歩かなければならないことが普通になっているのに、用水池のまわりに巡らしたフェンスを誰かが破って穴を開けていてそこから入り込んだ子供が事故を起こして所有者が賠償責任をとらされたことがある。
 ものごとはうらはらの面を持っていて、秤を偏らせるといろいろな問題が生じてくる。公共施設で防護策など過度に設置されることになるし、少しのことでも立ち入り禁止になる。
高速道路など交通機関の通行止め問題がある。風雨注意報が出て、すぐ道路が通行止めになる。危険注意ではだめらしい。
 ひどい豪雨であれば誰も災害の危険性は認識して行動すると思うが、九州自動車道での2009年集中豪雨による土砂崩れに夫婦が巻き込まれ、死亡した事件訴訟で交通止めをしなかったとして先日西日本高速道路会社が2億円の支払いを命じられた。異常豪雨下でも崩れるところは危険地帯の一部であり、それほど悪くない気象条件でも突然起こったりして土砂崩れの予測は非常に難しいのであるが。
 悩ましいのは港の突堤の立ち入り禁止のことである。一般に海に突き出した突堤はいい魚が釣れる可能性が高いので、釣り人としては是非そこに行きたい。一方突堤は海が荒れたときに波にさらわれる危険性がある。比較的平穏な天気でも突然大波が来ることがあり、リスクは高い。突堤を危険なまま放置しておくと管理者責任が問われるためだろうか、管理者が立ち入り禁止にしていることが多い。人が落ちた場合危険な救助作業をおこなわなければならなくなることもある。しかし柵を作っても多数の人がそれを乗り越えていき、立ち入り禁止の規制が管理者の気休めになっている。
 磯釣りは普通岩礁地帯の崖の低い部分で釣る。専門の渡し船で送ってもらうところは、危険なときは船を出さないし、急に海が荒れ出したら迎えに来るなど安全であるが、道路から磯に降りて釣るなどの場合は完全な自己責任となる。
 突堤から海にさらわれた場合、救命胴衣をつけていれば助かる可能性が高い。しかし、立ち入り禁止区域に入る釣り人に救命胴衣着用を強制することはできない。
 いろいろ考えると突堤立ち入りには、救命胴衣着用を義務づけ、利用者の自己責任にすることを一般的な常識にした方が社会的にいいのではと思われる。
欧州では、基本的に自己責任の世界である。危険な所に行ったり、危険な行為をしたりするのは日本ほど厳しくない。
 グローバル社会であるから、我が国も過保護社会を改め、基本的に自己責任のルールとしていく必要がある。