逆転の思想−117        目次
              水道公論2012年10月号


  米国金融界の強権
  金融界がサブプライムローンというネズミ講で大暴走して、とんでもない事態となったリーマンショックからはや4年たった。欧州金融危機に引き継がれ、悪い状況がずっと続いている。こういうことが二度と起きないように世の中が変わったのだろうか。
 先日珍しくビデオレンタル店に行って、コメディの棚を覗いたら「インサイド・ジョブ」というDVDがあり、借りてみたら、アメリカ金融界のあくどさを主題としたまじめな映画で、参考になるのでその後買ってしまった。
 その内容は規制をなくして儲けようという自由主義派が金融界だけでなく、大学や議会まで牛耳って、規制緩和法案を通し、投資銀行の儲けだけ考え、批判にも動じていないというものであった。欧州や米国内でも良識派の人がいて警告を出していたが、打ち消されていた。
 経営危機に陥った米保険大手AIGが、かってゴールドマンサックスのCEOであったポールソン財務長官の時に約17兆円もの金融支援を財務省や連邦準備制度理事会(FRB)から受け、1兆円のお金がすぐゴールドマンサックスに支払われ、問題になった。
 またAIGは米政府が発行済み株式の約80%を保有するまでになって、米政府管理下にあるのに、2009年に破綻の原因となった金融商品部門の4百人の幹部社員に対する2年分のボーナスとして約2億ドルを支給することが表に出て大騒ぎになり、9割を返還させる法律が下院本会議で可決されたり、幹部の一部がボーナス返還に同意したとされたりしたがその後どうなったか伝わってこない。
 オバマ政権は金融界のひどさを是正すると公約したが、政府、証券取引監視委員会など金融関係機関の主要ポストが危険な金融商品を後押ししてきた自由主義派に占められ、当たり前の規制もできない状況にあるらしい。AIG高額ボーナスを看過した現ガイトナー財務長官は、連邦準備銀行総裁の時にCDSを大量販売したAIG救済で多額の融資を行った。CDSの売り手は、対象企業が破綻したときに債務額を支払うもの。住宅ローンの破綻を察知したゴールドマンサックスが大量に購入して利益を得た。
 AIGのボーナス問題が大きかった頃、経済学会の学識経験者を使って、競争性が非常に高い業界なので、収入が減ると頭脳流出が起こるなどと言わせている。議会のロビー活動も莫大な金額を投じているそうである。結局、危険なサブプライムローンを安全だとして大量発行に絡んだ犯人追求もされず、金融界の桁違いの報酬もそのままになっている。
リスクが非常に高い金融商品を安全だとだまして売り逃げするようなこれまで何回もあったバブルがもっとひどい形で出現し、多額の税金が穴埋めに使われることは近い将来再びおこると予想され、我が国が巻き込まれないように用心深く見張っていなければならない。