逆転の思想−113        目次
              水道公論2012年6月号


  巨大構造物の意匠
 東京で二つの大きな構造物があいついで完成した。東京スカイツリーと東京ゲートブリッジで、名称が英語の組み合わせで日本語でないのが残念である。両方とも名称を公募して決めたそうであるが。
 地下鉄大江戸線が名称を公募して選考委員会で東京環状線と決まったのが、石原都知事が難色を示し、応募数第二位の大江戸線に決まったことを思い出す。確かにこちらの方がずっといい。
 もう一つ残念なのが意匠があまり奇抜といえず、殆ど論争がなかったこと。特にゲートブリッジは教科書の標準設計をそのまま持ってきたという感じである。東京タワーができた頃、エッフェル塔に似ていて独自性がないと海外から批判があった。構造的に考えると無難な設計でこうなったのだろうか。
 東京スカイツリーは用地の制約があったろうし、東京ゲートブリッジは羽田空港発着の飛行機に配慮しなければいけなかったことがある。地震国で、柱を太くするなど耐震設計に気をつけなければならない日本の事情もあるのだろう。一方で、最近の高層ビルを見ていると地震の時に大丈夫かと思えるような一面ガラス張りにしたものも多い。
 海外の大都市では新しい構造物に批判を呼ぶような斬新なデザインを取り入れている。ルーブル美術館の中庭入り口にガラスのピラミッドが採用された時にいろいろ批判があったことは記憶に新しいが、パリの象徴のようなエッフェル塔が作られた時、教科書に出てくる芸術家や科学者を巻き込んだものすごい反対運動があった。今やそういうことが不思議に思えるほど名物になっている。意匠がいいものであれば後世に、人を呼び込む財産となる。
 ロンドンのミレニアム事業でつくられたロンドンアイという、ウエストミンスター宮殿対岸の大観覧車やテームズ川にかかる歩道橋など奇抜な外観であるし、初期にいろいろな問題を起こしたが今や名物になっている。
 奇抜で一番面白いのがガウディの設計したバルセロナの住宅団地である。パトロンのグエル侯爵が60戸の団地建設をガウディにまかせ、広場、市場などできあがったが住宅が一戸も売れなかった。日本では必ずなくなっているだろうが、それを取り壊さずに公園にしたところがすごい。今やガウディの作品に身近に触れることができる場所として全世界から観光客が押し寄せている。
 我が国で特に土木構造物で意匠を考えない設計が多いのは、土木と建築という縦割り社会が厳然としてあることによるものであろう。アメリカにいた時、下水処理場の水槽でも建物でも同じ構造物技術者が設計していた。日本では構造物設計・建設とも土木、建築で全く違うので、とくに土木施設に意匠の専門家が育ちにくいことがある。またビルと水槽などが一体的におさまる構造物の設計がしにくい。こういう縦割りも早くなくさないといけない。