逆転の思想−111        目次
              水道公論2012年4月号


  津波対策の法律
 平成23年に津波関連の法律が2本できた。6月に成立した「津波対策の推進に関する法律」と11月に成立した「津波防災地域づくりに関する法律」である。
 津波対策を考えると、海岸堤防などの防災施設は、法制度よりも具体策をどうたてるかが大事である。一方、街づくりと避難体制という点を考えると制度が重要になってくる。
被災想定地域では次のことが基本となる。
1,すぐに逃げられる避難場所を確保する。
2,津波で流されるような建物はつくらない。
3,被害をできるだけ減らすためできるだけ高層化する。
4,病棟、介護施設など避難できない人の建物は低い高さにはつくらない。
 厳しいようだが、高台移転よりは実現性が高い。無理に高台移転させても世代が変わる頃には人は便利な低地に戻ってしまう
 また、津波対策のお金が入っていないビルが避難した多くの人の命を救ったことを考えなければならない。
 地域を指定して、こういう街づくりが実施できるよう、どれくらい建築規制をかけられるのかが一番の問題である。
 津波対策の推進に関する法律では、11条で、公共団体が都市計画法の用途地域や建築基準法の危険区域の指定による建築規制などにより津波対策を考慮した街づくりを行わなければならないとある。
 津波防災地域づくりに関する法律では、危険区域を警戒区域と特別警戒区域の二つに区分している。この二つは
 1,都道府県知事は、警戒避難体制を特に整備すべき地域を、津波災害警戒区域として指定することができる。2,都道府県知事は、警戒区域のうち、津波災害から住民の生命及び身体を保護するために一定の開発行為及び建築を制限すべき地域を、津波災害特別警戒区域として指定することができる。
 津波災害特別警戒地域が、津波対策の推進に関する法律の11条に相当し、同じような主旨に見える。
実は津波対策の推進に関する法律案は震災前の平成22年6月に提案されていた。この法律案でも、用途地域の指定、建築制限のことを書いていて、現法は、危険物や原子力施設を加えた危険物の条項を一条起こしているだけである。
もともと危険な地域を指定して、建築物の制限を行えるのは建築基準法39条で規定されている。その趣旨は、地方公共団体は、災害危険区域を指定して、建築制限する条例を制定することができるということである。
 法律はいくつもできたが津波対策としての街づくり規制に関しては基本的にあまり変わらないような気がする。せめて一本化して欲しいものである。
 どのみち区域を指定して、建築物を規制することは、利害が少しでも対立するとものごとがなかなか決まらない我が国では難しいと思われる。ただ、介護施設や病棟を安全にすることは進むのでないか。
 津波に強い街づくりは制度的には昔から可能であった。法律がいくつもあっても規制の強さや運用が変わらなければ街は変わらない。思い切ったまちづくり行政が求められる。