逆転の思想−110        目次
              水道公論2012年3月号


  パリの地下鉄
  昨年秋、パリに8日ほど滞在して、けっこう地下鉄を利用した。スリが多いので周りに常に気をつけていなければいけないが便利である。地下鉄は路線が14本もある。これに加えて、JRのようなRER(高速郊外地下鉄)が5路線走っている。地下鉄は銀座線を連想すればいい。車内は狭く、車両数は少ないが頻繁に運転している。一方、中心市街で地下を走るRERではびっくりするほど大きな2階建て車両が走っている。
 東京との対比が面白い。
 まず、料金が一本化していることがある。営団、都営、JR、私鉄と皆別料金になっている東京に比べて、地下鉄からRERに乗り換えても別料金にならない。
 営団地下鉄と都営との合併が話題になっている。乗り換えはしやすくなるが、単純に考えると収入は減るわけである。日本橋駅から豊洲駅まで行く時、距離からいうと1区間160円であるが、営団2路線、都営と乗り継ぐため割引はあるものの420円かかる。一体化して1区間運賃を10円上げて170円になれば収入は確保され、総体としては相当改善されるが、多少不利益となる人がいる場合の転換が非常に難しいので、できるだろうか。
 ネットワークで動くことが重要な地下鉄で、別料金になっていることが異常である。慣れていると感じないが、他国の状況を経験すると自分の暮らしている環境のおかしなところを感ずることができるようになる。
 パリの運賃は毎年のように上がっているらしい。2011年では乗車券が1.7ユーロで1ユーロ100円として170円となるが、最近まで1ユーロは160円くらいだったので、このレートだと270円にもなり、円高のすごさが実感される。ただ、10枚回数券が12.5ユーロで割引率は3割に近く、多くの人がこれを利用しているだろうから実質運賃はこのレベルと思われる。東京地下鉄の回数券割引率は1割と低い。
 パリ地下鉄車内はぎゅうぎゅうということはないが、座席は埋まっていることが多い。利用客が多く、頻繁に走っている地下鉄で、何らかの理由で少し遅れると,混み具合がひどくなり、ますます遅れて混むことになり、銀座線ではけっこうそういう現象が起きる。パリでは、次の列車だけでなく、その次の列車の接近具合もホームに表示されていて、すぐ次のが来るから1台待とうという人も増える。
 乗り換えであるが、フランス語の案内板がわかりやすい。乗り換えの路線、行き先駅、電車終点さえ知っていれば乗り換えできる。一方、東京では長年住んでいても、戸惑うことがある。東京駅で新幹線を降りたとき、地下鉄への案内がすぐ分かるだろうか。交通ネットワークをよく考えた案内標識が求められる。自動販売機を使えと窓口で切符を売ってくれないなどサービスの良くない点もある。RERでは乗り越しで交通違反並の高額なお金を取られるなど、現地の知識も必要である。
 電車内で座ってお化粧をしていることが日本だけしか見られない非常識とされているが、パリでもそういう女性を見かけた。また座席で寝ている人もいた。