逆転の思想−109        目次
              水道公論2012年2月号


  計画設計の責任範囲
 家やビルの設計を頼む時、デザイン、構造、居住性などの設計内容とともに実現性が求められる。法令や現場条件に合っていることなどのほか、予算の範囲ということも重要である。設計ができあがった家の工事見積もりが予算の2倍にもなったら誰も頼まなくなる。斬新なデザインの芸術性の高い建築で、コストが予測できなかったり、芸術性をどこまで追求するかでよくこの問題が起こるが、特に変わった設計とはならない公共施設では実施可能性の乏しい設計は単なる図面書きになってしまう。
 事業費が大きい公共事業で、当初考えられた費用からはずれないというコスト管理は特に重要であるが、どうもこれまで強く意識されてこなかったようである。専門家も育っていない。
 若い頃、流域下水道事業主体に議会直前に出向し、地方行政もよく勉強できないまま、補正予算、次年度予算、契約案件など重要な2月議会で、議案を審議してもらう立場になった。このとき下水道事業団に対する下水処理場委託事業内容の変更議案がかかっていた。百億円程度の総工費を2割程度増額してもらう内容で、工事内容があまり変わらないことなど説明が難しく、委員会で相当叩かれた。当時の流域下水道事業の数年分にあたる大きな事業費であったので、審議する方になってみればなんだということになる。ともかく可決してもらったが、その後、工事内容を見直しして、減額修正した。これで事業責任者として信頼度が高まったのではないかと考えている。その後の新事業展開も円滑に進んだ。施設を一部省くなどある程度我慢するなどしたが、企業局からプロジェクト経験豊富な人材を出してもらっていたこともあり運転も問題なかった。
 下水道は計画設計が定型化している面が多いので、全体コストの把握は難しいものでないはずであるが、コスト管理がよくできなかったために、多数の人がしなくていいはずの苦労をしてきた。コスト管理責任は基本的に事業主体にあるものの、今では専門知識がないことが多く、計画設計の受託者がコスト管理まで配慮すべきであるが、そうなっていないようである。公共工事の設計外注がもともとしっかりした事業者がいて、その下働きからはじまっているのでそうなった面もあるし、技術料も満足に見てもらえない状況では無理なのだろうか。結局発注側の体制が変わってきたのに、事業運営をよく考える責任の所在がはっきりしなくなって、いろいろな問題が出て、多くの人が苦労する結果となったと思われる。
 津波で壊滅した多くの都市で復興計画を早急に立てていかなければならないが、計画設計者のコスト管理能力が事業実施の生命線になると思われる。財政規模の小さい公共団体で、大規模な街造りを急いで進めなければならず、様々な選択肢を比較して、半端でない国費投入が必要になるにせよ、当初計画を大幅に上回るコストになったら、公共団体は破滅してしまう。