逆転の思想−108        目次
              水道公論2012年1月号


  打ち出の小槌
  大震災と原発事故、国の膨大な借金、雇用の厳しさ、年金、医療の見通しの難しさの一方、ずっと続くデフレと悪いことばかり。鳴り物入りの埋蔵金掘り出しも期待はずれだった。
 デフレ状況を打開するため。特別にお金を沢山発行してもいいのでないかと考えていたらそれを主張する本を見つけた。「政府貨幣特権を発動せよ」著者は大阪学院大学丹羽春喜名誉教授、紫翠会出版。
 この本によれば、現行法で認められている政府貨幣発行を行うべきとし、紙幣でなく権利を発行して、これを日銀に買い取ってもらう案で、例えば額面10兆円の1枚の紙幣を現行紙幣に交換するようなものであろう。
 デフレギャップのひどい現状では600兆円も発行できるそうである。
政府貨幣の発行は江戸時代の貨幣改鋳のようなものであろうか。
 1736年、元文の改鋳で1両当たりの金含有量を減らした。貨幣額が1.65倍になり、幕府がふくれた分だけ得をしたことになる。一時的なインフレは起こったが景気は良くなったらしい。悪いことをしたという評価が一般的のようだが、以外といい措置であったのかもしれない。現在の円貨幣流通高は81兆円であるので同じ比率65%を発行すると53兆円になる。お金を沢山発行すると、終戦時の大インフレが連想され、とても・・・という感じであるが。
有名なインフレは一次大戦後のドイツがあり、7桁になったそうである。つい最近までのブラジルのこともある。
 ブラジルは70年代に大きな経済成長を遂げたが、その際対外債務が膨らんだ。
 1979年の第二次オイルショックに端を発した為替の暴落が対外債務危機をもたらし、それ以降インフレがひどくなり1987年〜1994年の間、年平均インフレ率が1500%となった。これは値段が1年間で15倍になり、総体では7桁のアップになるというすさまじい状況であった。紙幣増刷も原因の一つであると言われている。
 我が国では終戦時、インフレ対策で預金封鎖と新円への切り替えが実施されたがインフレは進み物価が百倍になって、国民が大量に購入させられた国債が紙切れになってしまった。
しかし、デフレが何年も続いて、しかもユーロやドルの不安が一層増していて、これ以上の円高が想定される異常な状態ではこういう方法が有効であると思われる。
 政府貨幣を発行してその半分を外債など外国のものを購入しておけば、円安がひどくなった時に対処できる。現在の外貨の手持ちが沢山あるのでその必要はないかもしれないが。 いきなり多額の政府貨幣を発行すると円に対する信頼感が薄れて国債の暴落につながりかねないので、10兆円くらいの小出しにして様子を見ることもある。経済は魔物であるから、いろいろな特効薬を持っていた方がいい。ただし適切に使わなければならない。