逆転の思想−99        目次
              水道公論2011年 3月号


  枕銭の怪
  外国に行って気になるのが日本にあまりない習慣のチップである。食事、タクシー、ホテルなどで用事を頼んだりしたときに考えなくてはいけない。常に小銭を用意しておかなければいけないことの方が手間である。商店では不要で、ファーストフード店もいらないらしい。金額は10%だとわかりやすいが、平均的の15%内外では計算も難しくなる。
 ただでさえなじみのない外国通貨で計算するのも面倒である。
 忘れたりすると気になる一つが枕銭である。水辺の写真撮りが目的で、人生で残された時間も少なく、海外の取材はヨーロッパに絞っているので他地域のツアーは分からないが、何処の旅行会社も枕銭を置くことを勧めている。金額は百円程度。当たり前という風な雰囲気の説明である。
 ところが一昨年まで行っていた英会話学校で一度英国の若い先生とチップが話題になったとき、枕銭のような風習は全くないと言われた。どうも欧州では日本人だけがこういう不思議な風習を持っていると考えられているらしい。
 ツアーで一泊の場合は置いた枕銭がその後どうなるのか分からないが、連泊の場合、置いた小銭がそのままになっていることがある。考えて見ると日本人のあまり行かない地方都市で枕銭がそのままになっていることが多い。ということは部屋を片付ける係に枕銭の概念がないのだろう。
 枕銭は、欧州はこうだろうと日本人が勝手に考えて常識になってしまったのだろうか。
 チップは同じ英語圏でもアメリカはまた少し違うようで、欧州内でも国によって違うらしい。親の世代では、温泉旅館に泊まる時、部屋係に心付けを渡していたなど時代の変化もある。
インターネットで世界各国の世相まで分かるようになってきたし、瞬時に外国まで送れるメールなど国際的な情報の広がりはすごいものがあるが、意外と分からないこともある。
 サービスの世界は形がはっきりしない。また少額なのでどっちにしてもたいしたことないこともある。
 お金に関して価格やお釣りなどきっちりとしたお金の出入りをするのが習慣になっている日本人にはあまり合わないが、価格やサービスの金額は状況によって変動してもおかしくないし、そういうようにアバウトに考えていけばいいので、結局、あまり気にしないのがいいのだろう。
 怖いのは日本人の風習が一般的に知られるようになり、団体が泊まったとき、お金に困っている清掃係が客が出払うのもそこそこに部屋に入ってきて持っていってしまうようになることであろう。
 客が一時的に出ていただけで戻ってきて鉢合わせしたり、出発のどたばたでお金や貴重品など荷物を開けたまま部屋を離れていて、ついでに取られてしまうなどのこともありうる