逆転の思想−107        目次
              水道公論2011年11月号


  所得の把握
 昔から税の補足率はクロヨンと言われ、給与所得者は9割、自営商業は6割、農家は4割とされてきた。これを実感したのが学生の頃であった。親が公務員で、大学まで行かせてもらったが、年金が入らない祖父母が同居していて家計は大変だった。お金で苦労して育つと、お金で失敗することが少なくなり、人生経験上はいいのだが。
 当時、保護者収入に応じた奨学金の制度があり、給与所得の家庭ではほとんど望みがなかったが、はるかに豊かに見える家の学生が奨学金をもらえていて、その実家は自営であった。最近は補足率のことがあまり言われていないが、ネットサーフィンをしてみると変わっていない話もある。10・5・3というような話もある。
 サラリーマンの必要経費を考えて見る。背広などの被服、知識保持のための図書費、学会会費、専門誌、一般紙の購読費、社内懇親会費など、拡張解釈しても80万円くらいでないだろうか。一方、給与所得者は所得控除があり、年収500万円の場合を計算すると154万円で、補足率は約7割である。補足率9割は年収は3千万円くらいでないとならない。この場合必要経費は月あたり25万円にもなる。
 給与所得者の控除額は必要経費として認められそうな支出をある程度拡張解釈した額よりもずっと多い。また厚生年金、健康保険の支払いも半分会社が負担してくれる。
 自営業の場合、補足率が低くなる要因として、家屋の一部分を店舗や事務所とする、自家用車を事業用の車とする、家屋内装工事費用を事務所の維持費とする、私的な食事代を交際費とするなどがあるとされる。しかしこれらの経費を積み上げても給与所得控除よりはるかに高額の必要経費は計算しにくく、クロヨンを実体的に理解できない。自営業の補足率が6割程度とすると、平均的収入世帯では給与所得者と補足率があまり変わらないことになる。
 農家についてみると、自家消費があるといわれるが、自家消費については収入にカウントしなければならないことになっている。ただ兼業農家では、配偶者の専従者給料が必要経費として控除を受けられ、相当大きいと思われる。この場合配偶者控除は受けられない。
 5百万円の給与所得者と300万円の給与所得及び200万円の青色申告農業所得があって配偶者に専従給与を出している者と比べてみる。給与所得控除、専従者給与控除、青色申告控除、扶養控除などを計算して、保険料控除などを入れない状況で補足率は6.2割と4.5割。この想定は兼業農家に有利になっているようであるが、収入が増えてくると各種控除額が一定範囲しかないので差は小さくなるし、逆転することもある。65万円と一定額の青色申告控除を逓増性にするなど工夫すれば差は縮まると思われる。
 また個人事業主の事業所得は必要経費を差し引いた後の額であるので、バランス上、給与所得者の所得を、給与所得控除額を差引いた額で示すことも必要であろう。
 どうも今の世の中では、給与所得者と自営業者と税の補足率はあまり変わらないように見えるが、表にでない節税の便法があるのだろうか。実際を知りたいものである。