逆転の思想−104        目次
              水道公論2011年 8月号


  汎用品と特注品
 相当昔アラビアの開発途上国に海外技術協力で出張したとき、泊まったホテルの客室空調が全部家庭用で、各部屋に空調がついていて面白いと思ったことを憶えている。東欧の国の協力でつくったホテルなので、設計者がビル空調の知識がなかったのか、それとも技術者を遠い外国から呼んで普通のビル空調をつくるよりも、音はうるさいが汎用の家庭用空調を買って、設置した方がいいとしたのか分からないところであるが。過去、ビルの空調が効き過ぎたり、効かなかったり、使い勝手がよくないという話が多かったので、家庭用のを沢山付けた方がいいようなビルも多かったと考える。現在では制御も進化してこういうことはなくなっているのであろうか。
 汎用と特注の比較というのは大事である。ビル内の時計で、昔は配線工事が伴う特注のものが多かったが、いまや至る所に時計があって、設置の必要がなくなり、修理や更新が面倒なので、あっても市販の掛け時計を使うようになっていると思われる。市販の掛け時計はいいものが安く提供されている。定期的な電池交換は必要であるが、壁掛け金具さえあれば何処にでもつけられるし、更新も安価な汎用品を買うだけでいい。団地の広場に時計があり、取り替え時期になったが、百万円するという話であった。屋外型の汎用品であれば数万円で買えるが、けっこう高い柱の上にあったこともあり、どうなったのだろう。
 歴史的価値のある古い建物では、天井、床、窓や建具、家具など、設計者が細部までデザインしたものがあり、素晴らしい価値を持っている。テーブルや椅子などもあり、マンホール蓋まで及ぶ。当時の設計者はよくそこまで頭を使ったものと感心せざるを得ないが、特注品の価値が非常に高い。
 昔、海上コンテナに水質試験機器を詰め込んだ移動式実験室を開発したことがあった。
電気炉、蒸留器、冷蔵庫、空調など電気を食う設備が多く、家庭用ではなくなるため配電盤をどうしようかと専門家に相談したら、数十万円かかるという。高いのでどうしようかと物価版を見ていたら、標準配電盤が十数万円で出ていたので、これで積算したが実際に入ってきたのは数万円くらいの既成品であった。でもこれで支障がなかった。
汎用品といえば、10年くらい前いくつかの処理場の電力消費調査をしたとき、電力計が殆どついていなくて、どういう機器でどう電気が使われているかデータが取れなくて解析に苦労したことがあった。幸い、水処理施設で返送汚泥ポンプの電力消費が多いことが初めてわかり、成果は得られたが。
 量産品の電力計を入れておいてもらったら、より詳細な実態が把握でき、細かい省エネの工夫ができたと思われる。省エネは70年代後半の石油ショックの頃から継続して大きな課題であり、厳しい事業運営で工夫の成果の出やすいところでもある。高価な計装や制御施設にお金をかけるよりもこういう方がよほど重要と思われるが。