逆転の思想−102        目次
              水道公論2011年 6月号


  危機管理の専門家
 未曾有の大災害で、こうしておけば良かったということがいろいろあるが、その一つに初動の段階で危機管理のプロが実権を持っていなかったのではということがある。
 こういう状況の時は一分一秒が大切で、急いで的確な手段を講ずることと事態の行方を想定して先回りしておくことが大事であり、これが遅れることは、不幸を大きく増大させる。
 今回、ヘリの運用を早期に本格化したのは、前進であったが、航空機の機動的運用に基本的な問題があったと思われる。
 3時頃であったから、速やかに飛行機ないしヘリを飛ばして、暗くなる前に津波被災地域の写真を撮っておいて、夜中に専門家が判読して、被災の特徴などおおまかな状況が把握でき、どういうことをどうすればいいか判断し、現地と連絡がとれないことが分かって、翌朝には主要な避難場所に衛星電話を投下できたと思われる。限られたものとしても現地との連絡がつくことは、その後の救援活動の実施に大きく役立つ。これまでの幾多の災害で、すぐ持って行ける高価でない多数の衛星電話の保管が大切なことは当然のことである。
 米軍は、多数のヘリ運用ができる航空母艦をすぐ現地に向かわせた。阪神淡路震災の際、他に移動手段がないなか、ヘリの運用で貴重な自衛艦を神戸沖に展開させていたかどうか分からないが。
自衛隊の投入の具体内容も早期に把握できただろう。報道を見ると、状況把握が遅れ、1日以上は損したのでないかと思われる。
 危機管理責任者は、どういう手段が使えるか、またいつまでに手を打てるかを熟知しているとともに、危機の状況に応じて、手段を使う権限をもっていなければならない。
 特に情報をいかに早く入手して、それを的確に解読できることが求められる。こういう危機管理のプロは、組織の長にはいないので、非常時になったと同時に、権限を発揮できるようなシステムにしておかなければならない。一瞬のうちに、多くの組織や人を動かさなくてはいけないのであるから、実権も必要である。実権が危機管理責任者にない場合、すぐやれといわれてもなかなか動かないものである。
 権限を特定の者に集中させることは間違いを生む可能性もあるが、一秒を争う意志決定をしていかなければならない世界では、損失は結果的に少なくなる。合議制にすればするほど、責任がどこかに行ってしまうので、手遅れになるくらいの状況になってやっと対策に着手するというようなことになる。
 阪神大震災のあと、あらゆる公共機関で震災対策のマニュアルがつくられた。膨大なもので、実際非常時に実行できるのかがあり、特に、メンバーが多い災害対策連絡会議をあちこちにつくることが主になっていて、これについては非常に疑問であった。
 非常時では権限を集中しなければならず、災害対策本部で実態が分かる責任者数名が必要時期に打ち合わせすることが実質的なことでないだろうか。