現場管理に思う<下>     亀田泰武

 

水道産業新聞 2000年10月30日(月)より

 

 信頼関係で仕事をする体制のもとで冷酷な競争をすることは難しい。また競争社会にはチェックするという莫大な社会コストが必要になる。信頼関係で仕事をしていた効率的な体制や社会コストで競争社会に入っていくことは虫が良すぎると言うものである。競争の社会にもっと移行すべきという世の中の論調であるが、このためにはチェック体制の整備がないとよくわからない世界となってしまう。

 信頼関係を保持しつつ、公正な競争をするのが一番いいのだが。

3,アウトソーシング

 最近よく耳にする言葉で業務合理化の有力な手段として見られている。社員食堂の運営を給食会社に委託する程度のことは専門家にまかせるという意味で理解できるが、主たる業務まで外注するようになってきている。この場合仕事の評価が問題になる。商品の製造のように形がはっきりしているものはいいがソフト的な仕事は善し悪しの評価が難しい。

 例えば調査設計業務の成果の評価は非常に難しい。設計のやりかたによって、工事費が大きく変わる。発注者側に優秀な専門家がいて仕事の細部までチェックできるものであれば競争社会でもいいと思われるが、そうなると単なる作業の請負である。提案型の設計業務が、質のいい設計業務をするといわれているがこれに応じることは設計会社にとって多額の人件費を発生させることになる。この仕事を受注できた会社はいいが、ほかの会社はその費用が大きな損失になる。いろいろな検討作業がなされたのだから発注者がこの費用を負担すべきものであるが全体のコストが高くなり、行われない。リスクが高いので提案型の設計やデザインビルドの応募は必然的に少なくなるが、数が少ないと増やすように発注者側から圧力がかかるケースがあるようで、社会費用を増加させることになる。
 一方この種の方式は発注者側にも大きな負担がかかる。提案の評価には高度の専門知識が必要になる。また前提条件が適正でないと提案の評価が難しくなる。

 下請け工場や協力工場はいままで親会社と信頼と協力の関係で仕事をしてきていた。最近、インターネット調達など、この関係がドライになりつつあるようである。このことは部品の細工で組み立て作業を楽にする工夫など、全体の効率化のために互いの仕事を理解した上で改善努力するというこれまでの一心同体のような関係もくずれていくことを意味する。
 信頼関係で仕事をしていたときはいいが、競争社会になってくると個々の組織の利益が優先するようになり、全体としてどうなるのか難しくなる。

 発展著しい、外食ハンバーガーチェーンはパートタイマーを多用して人件費を抑えているが、しっかりとしたマニュアルを徹底することにより品質を確保しているそうである。 現場に知識と経験豊富な人材を配置しないで、人件費を抑える代わりに、中央の権限と責任が現場までしっかり浸透するようになっている。

 報道によると今回の事故では工場にマニュアルが存在していて、これを何重にも違反していたようである。
 一方、成果がはっきりしない仕事をアウトソーシングしながら、マニュアルすらろくに存在しない現場が結構ある。
 日本では、使えるマニュアルを整備し運用することは世の中の仕組みからなかなか難しいと考える。これについては別の機会に述べさせていただきたい。

4,契約社会システムと協調社会システム

 この二つの社会は相容れない傾向がある。そごう問題など新生銀行のその後の過程がこれを表しているような気がする。日本側の認識は、困っている金融機関を助けて、損しないように運営して欲しいという協調精神で取り組んだのに対し、買収側はいろいろなリスクを考えて、契約内容を吟味し、儲けが見込めるから買収したのではないかという感じを受ける。
 こういうケースの場合、契約に対する考え方が非常に重要になる。契約社会側は契約書の細かいところまでチェックして、厳しい事態の対処まで想定し、リスク評価を行って意志決定を行うことになる。
 一方協調社会側は互いにひどいことをしないという協調精神で当たることになる。
 我が国の行政社会ではその道のプロが意志決定者になることはないから、意志決定する人はリスクの展開まで理解できないかもしれないし、金融のプロが主導権を握って深刻に考えても我が国の表向きにはいいことしか言えない社会構造では黙っているしかなかったかもしれない。

 表向きいいことしか言えない社会構造は60年前に破滅の道を歩んだときから変わっておらず消費税導入の時にも示された。被害者が多数出るような悪政であるとの報道が連日なされた。税収の方法の変更で世界的に実施されている国の方が多いが、政治の大転換のような騒ぎであった。一方、大騒ぎのあと消費税の実態の客観的な分析は見たことがない。一番問題なのは経済成長による所得増を配分することにより、身を切る事態を回避してきた日本が低成長時代になって身を切る手術があちこち必要になりつつあるが、改革の意欲を減退させる手本のようになってしまったことである。

5,おわりに

 筆者が昔お世話になったロスアンゼルスの広域下水道で当時運転管理マニュアルを整備していたがこれは機器の詳細説明からどういう場合にどういう措置をする具体的な指示を与えるものであった。当然ボリュームも相当なものであった。いろいろな事態における個々の機器やバルブの操作まで具体的に記述するこの手のマニュアルは作成するだけで設計費より高いくらい人手のかかるものである。

 仕事のやり方、チェックの仕方、マニュアルの書き方などは社会やその時代の考え方で大きく変わるものである。我が国では、これまで皆が同じ考え方で動き、こういうことをあまり文書化することがなかった。 全体的に効率的に運営することが重要になってきている現在、競争契約システムと協調システムの特性を考えて事に当たっていく必要がある。

 また信頼関係で仕事をすることは結局は効率がいいことであるから、競争社会の中に生かしていく必要があると考える。