逆転の思想−80
              水道公論2009年 7月号


  メインストリートの変遷
 
 死語となりつつある気がするが、銀ブラという言葉があった。商業の一等地である銀座通りをカップルないし家族でウインドウショッピングをしながら歩くことというのが大方の理解であるが、その語源は芥川龍之介、菊池寛などの著名作家が銀座のカフェ・パウリスタでブラジルコーヒーを飲んだことであるとのこと。パウリスタは銀座八丁目に現存している。
 昔から三越、松坂屋、松屋のデパート、服部時計店、鳩居堂、服飾店、など様々な分野の有名店が並んでいて、幅広く人を受け入れていた。筆者は様々な文房具があって楽しい伊東屋や、CDの試聴ができる山野楽器には時々行く。
 この世界の銀座通りが急速に変化している。料理店などが大衆化してランチを1000円くらいで食べることができるなど気軽に入れるようになっているのはいいが、気がかりなのは外国ブランド店の急増である。銀座通りは様々な種類の店が並び、これまで外からよく見えるし、けっこうひやかしでも店の中に入れて、家族や友人と通りを歩くことが楽しい世界であった。ところが外国ブランドの店は入り口が小さく、ガードマンがいて、入りにくい雰囲気をもっている。売っているものも高額な服飾品、宝飾品など子供や男性、お金のない女性に興味がないものばかり。窓側の商品の展示も少ない。なじみとかはっきり購入の意志を持った人でないと近寄れない。こうした店がどんどん増え、つまらない街になりつつある。
 大阪の大通りである御堂筋は心斎橋から南はデパートなどが並んでいるが、大阪に勤めていた20年前は本町から淀屋橋あたりは両側に銀行がずらりと軒を連ねていた。本来屋外のカフェが並ぶシャンゼリゼのようなところであるのに、商品を並べるでなし、午後3時には閉めてしまうし、休日は何もないという味気のないさびしい世界であった。ここが銀行の再編、合理化などにより、一般の店が居を構えるようになってきた。最近行っていないので状況はわからないが人の集まる方向に向かっているのではと考える。
 地方の駅前通りでシャッター街が増えている。自動車交通の比重が上がり、駅の乗降客が減り、買い物も自動車で行くようになって、駐車場確保の難しい駅前通は敬遠される。
 ロスアンゼルスの中心街は30数年前デパートが2軒あった。しかし当時すでにお客は少なくなっているようで、郊外型のショッピングモールが活気を見せていた。その後、中心街のデパートはなくなり、商業はすっかりさびれてしまった。
 銀座通りも、楽しく歩くことができる状況を保持していかないと、人通りの少ない味気のない街になり、そのうちにシャッター街になってしまうかもしれない。