逆転の思想-76
              水道公論2009年 3月号


  値段の不思議
 
 物の値段には不思議なことが多い。百円ショップを覗くとどうして電卓やフライパンなどが、たった百円で売られているのか理解できないことばかりである。一方で簡単な作りのブランドものの鞄が何万円もするのも不思議である。
 就職した昭和40年代、公務員初任給は今の1/10くらいの2万円であった。ところが背広は合成繊維の安いものでも4万円くらいもした。現在初任給が10倍になっているのに純毛の背広が2万円くらいで買える。給料との比でいうと、20分の1くらいになっている。円の価値が1ドル400円くらいから100円へと4倍になっているとしても不思議である。羊毛の値段が相対的に非常に安くなっているからなのだろうか。海外生産による人件費安によるものなのだろうか。一方、初任給をもらった頃のLPレコードは2千円くらいであった。今のCDも同じくらいの値段で売られている。
 容器入りの水がよく飲まれている。国産に混じって遙か遠くの国で汲まれたものもある。値段も様々でいろいろなところで話の種になっている。水道水と販売されている水と飲み比べてみるテレビ番組がよくあるが、水道水の方がおいしいという人が多いくらいである。
 筆者も含めて1円でも安い買い物をしたいのになぜペットボトルの水を買ってしまうのだろうか。水道水500CCが0.15円くらいなのに自動販売機では100円程度。他の清涼飲料水とあまり値段が変わらない。近所のスーパーが水売りをはじめて最初に容器を買えば、ずっと20リットルを20円で買える。つまりリットル1円である。
 それからみると容器詰めや輸送に大きなコストがかかっていることになり、水と値段が変わらない清涼飲料水の成分は安いもののように思える。ところが水を加えてつくるスポーツドリンクの粉もけっこう高い。粉に精製するのにお金がかかるのだろうか。
 一時高かったガソリンも値下がりしてきてリットル100円くらいになった。しかし水2リットルペットボトルが100円〜200円と比べると、地下深くから汲み出し、タンカーで地球を半周するくらい長い距離を運んだ原油から、大がかりな装置の精油所で抽出し、多額の税金がかかり、またタンクローリーで石油スタンドまで運ばれるガソリンが如何に安いか驚いてしまう。リットル500円でもおかしくない。ガソリンが一時190円くらいになって大騒ぎだったがこれはこれまで安いままであったのでそうなのであろう。
 日本人は安全と水は只と思っているというが、確かに食堂などで水はタダである。お茶もタダのところが多い。水もお茶も原価はともかくサービスの手間がかかっているのだから本来有料のはずであるが、習慣になってしまっている。
 物の値段はわからないことばかりである。