逆転の思想-70
              水道公論2008年  9月号


  ラクダのレース
 20年くらい昔のことであるが、海外技術協力の出張で中東のドバイかどこかで乗り継ぎすることになり、夜到着して次の日の便を待つことになった。朝ホテルでテレビを見ていたらラクダレースを中継しているところであった。小さな可愛い子供が乗ったレースで、観客席には恰幅のいいアラビア服の男性がずらり。子供のレースを応援する父親達と思いこんでいた。ラクダは、はじめは一所懸命に走るが、そのうち疲れてくると、とことこ歩き出してしまうのが多い。
 あとでこれが競馬のようなプロのレースであり、子供は外国などから雇われて来ているということが分かった。乗るのは体重の軽い小さい子供であるので選手生命も短い。ただ最近は子供を騎手にすることは禁じられるようになってきている。禁止に伴い、声を出したり、むちを使えるロボットも使われるようになった。
 人気の高校野球であるが、これと少し似ているように感ずる。純粋なアマチュアの高校生が競うという表舞台の裏は、高校なのに野球部選手に関しては、有名校が全国規模で学生を集め、応募し、特待生とするという普通の高等学校の受験とは別の、プロと変わらない世界となっている。常連の有名校は有力選手を集めるプロ野球の強豪チームのような存在と化している。また優勝校、選手があまりにも有名になってプロ野球につながっているため、勝負に対する体力的、精神的な負担が大きいこともある。これを純粋アマチュアの世界というのはどうだろうか。
高校生が一生懸命練習するスポーツは沢山あるのに、硬式野球の全国大会だけ過剰に報道されている。他のスポーツの大会は殆ど載らない。あまりに違うので、差別を感ずるが、大メディアが主催なので批判をする人は表に出てこない。
家の近くに区の野球場があり、いろいろな試合が行われている。軟式、硬式、ソフトボール、リトルリーグなど。全国大会などもけっこう行われている。高校野球を除いて無料なので時々時間が空いた時は見物するが、近くで見ることができ、皆一所懸命に競技していて面白い。特に低学年の子供野球はいろいろな変形があるし、しぐさが可愛い。女子野球の全国大会では投手、野手の球の速さに驚いた。
 日本人の集中性もあるのかもしれない。人気のあるものはこぞってちやほやするが、少しはずれると誰も知らん顔。ミロのビーナスなど有名な美術品がやってくると大勢の人が押しかけ、何時間待ちというような状況になる。しかしそれらの多くの人々が日頃美術館に行って、鑑賞しているとは疑問である。他の人と同じことをしたということが大事に思える。
 集中性をスポーツで代表するものが高校野球ということになるのだろうか。
この傾向もプロ野球やプロサッカーの地域ファンの増加にみられるように次第に変わっていくといいと思う。
一方、この集中性は、日本のお家芸である、皆で一緒に頑張って難しい課題を成し遂げることにつながっているかもしれない。こっちの特性は後世にしっかり伝えていかなければならないが。