逆転の思想-68
              水道公論2008年  7月号


  空白な情報の解析
 子供の頃に読んだガモフの本はいまだに強く記憶に残っている。いろいろなシリーズがあって、宇宙がビッグバンから始まったとか、光と時間の関係とか最先端のことを子供に伝えるいい科学書であった。その中でいんちきパン屋の話があった。食糧難でパンが配給されていた国で、検査官が配られたパンの重さを毎日記録して、配給の小麦粉をごまかして少し小さいパンを作っていると摘発した話である。パンの製造過程ではどうしても重量が一定しない。パン屋は大きめのパンを検査官にいつも渡していた。しかし渡されたパンの重量は正規分布の右端の状況を示していて、分布から見た平均値は配給で規定された重量より少ないことを判断できた。統計学が盛んになるずっと前に、もう統計の考え方と、情報の空白に気がついて分析するという、ものの判断の仕方を分かりやすく教える素晴らしい本であった。
世の事象を見て、情報が空白なところやおかしいところを見つけ、中身を解析することは大変重要なことである。それを見つける場合、一般的な事例の型を知っていなくてはいけないし、統計など解析手法を身につけておくことも重要である。おかしいと感じるようになれることが大事である。
 情報の空白について、長期に防衛事務次官の職にあった人が、かなりの頻度で長年にわたりゴルフ接待を受けていた防衛省の不祥事問題がある。社会的な地位が高く、行動がガラス張りになっている政府高官のゴルフ接待が報道されることなく何年も続いたということは、組織の内部だけでなく、すぐそばにいる記者クラブメンバーも知っていて黙っていたということになる。それは何だろうか。
サブプライムローン問題で窮地に陥ったシティ銀行がアラブの公的投資ファンドから75億ドルという多額の出資を受けたという報道も不思議である。経済専門の一般紙でも伝えなかったが、株式転換ができて利率はなんと高率の11%であるとのこと。多額のお金が動く場合その条件がどういうものであるかは重要なことである。出資で、アラブ社会では御法度の利子がもらえるというのもよく分からない世界であるが、何故こういう重要なことが報道されなかったのか。
 経営が大幅に悪化して累積損失が1000億円になり、東京都が400億円追加出資することになった新銀行東京であるが、金融庁がやっと検査することになった。少し前、検査漬けにされたUFJ銀行が思い起こされる。株価が高いままであったので、経営状態は悪くなかったようなUFJ銀行が金融庁に執拗に追求され、あげくに東京三菱銀行に合併させられた。
 急速に増員され、多岐にわたる検査を担当する会計検査院よりも多くなって充実した検査人員なのに、新銀行東京についてなぜこれまで調べてこなかったのだろうか。またひどい状況が誰でも分かるようになってから、検査される側に負担が大きい検査を何故後追いで実施するのだろうか。
 情報が空白であったり、中身がないと言うことはそこに重要なことが隠されていることを示していることがある。誤らない判断のためには異なる種類の情報源を持つことが好ましい。