逆転の思想-59
              水道公論2007年 9月号


  公共事業の費用見積もり
 事業に必要な支出がどれくらいかかるのかはプロジェクトの正否に大変重要なことであり、当初見積もりの悪さによってプロジェクトが途中で挫折するなどのことが起こる。
 できるだけ実態に近いお金を把握するため、積算をできるだけ現場の実状に合うようにすることが求められる。具体の作業を先行すればするほど別な方法が良かったということなどで、先手で方針変更をできることもある。プロジェクト費用は事業の進む各段階ごとに把握する必要があり、それには本来高度な経験や技術が必要である。しかるに我が国ではこの分野での専門家が育っているのだろうか。
 実施設計に入って積算作業が終わらないと費用が全くわからないと言うことはプロジェクト管理者としての意味がない。
 また、事業の進捗過程で、当初見積もったお金が説明できないほど違ってくることは、作業管理者が無責任であることを示している。
 これまで説明が難しい事業費用の大幅増額変更でどれくらいの人が苦労してきたかわからない。石油ショックなどの物価高騰、遺跡の出現など説明可能なものならいいが、当初想定された範囲内のことが原因であるといい加減な事業計画をつくったことになる。
 筆者が具体のプロジェクト管理に直接関わったのは秋田県庁に出向した時であった。当時流域下水道と大規模運動公園のプロジェクトが始まっていた。着任最初の議会で処理場の事業計画変更が必要になり、費用が確か2割程度高くなる案件が審議された。承認はされたが相当議会で絞られた。総額が百億円程度の公共団体としては大事業であったので審議も慎重になる。
 その後、事業の効率や財政状況も考え、初期施設建設範囲を抑えるなどして、もとの事業費に戻すことができた。
 一方公園事業は全国高校総合体育大会の主会場に予定され、供用開始の変更ができないという、工程が非常に厳しい状況であったが、当初のプロジェクト費用の見積もりが良かったせいか、事業費用の増額変更で悩まされたことはなかった。
 これからPIなどで構想段階から広く外部に説明など行っていく上で、概算費用をいかに最終的に常識的にはずれないように積算することが重要となってくる。この辺の技術的知識の集積はなされているのだろうか。分流式下水道の新規事業などでは、事業が一般的なので費用見積もりも相場をおさえやすいが、合流式下水道の改善方策などは現場ごとに状況が違うためにプロジェクト費用も相当しっかり考えていかなければいけない。
一般に事業費用を大きく変動させるのは構造物の仮設と基礎建設費用が大きい。事業箇所の一点ボーリング調査を行ったり、近接のボーリングデータを調べることにより、計画初期段階で費用を相当程度正確に把握できる。
 公共事業の構想段階から事業の透明化を推進していくためには、様々な知識、経験、調査検討の積み上げが必要である。