逆転の思想-56
              水道公論2007年 6月号


  生存に必要な水
 人の生存に必要な水はどれくらいかとという話がよく取り上げられ、飲み水としては一日最低2あればいいので、水道で使われる200程度の水は多すぎるように言われることが多い。
 最近水資源について調べることがあり、この作業過程で、別な要素が浮かんできた。
 仮想水(バーチャルウォーター)という概念がある。食料など生産に必要な水の量を考えるものである。穀物について見ると、小麦で2000倍、米で3600倍の重さの水が使われるとされている。穀物など飼料を食べる食肉の値はもっと高くなる。我が国の輸入食料品について仮想水を計算すると我が国の総灌漑用水量を超えるほどとなるそうである。
 人が生きていくためには水と食べ物が不可欠である。
 一日に最低1600kcal必要と考え、一番水使用の少ない小麦でまかなうとすると、その量は400g。この小麦生産に必要な水の量は800
になる。これが生存のため最低必要な水量となる。実際にはカロリーの低い野菜や、もっと水消費の多いタンパク質などの食べ物も摂取しなければならず、結局1㎥を超える。直接の消費でないため隠れているが、人の生存に最低必要な水の量はこんなにもなる。水道に使われる量の何倍もの量の水が人の最低の生存に必要となる。我が国では、米が主食と言うこともあり、一人当たりの食料生産に必要な水の量は2㎥を超えることとなる。
 貧しい発展途上国で、乳幼児死亡率の減少など医療援助、井戸掘りによる最低の水の確保など人道的援助によって、人口が増えると、人々の生存のため結果的に大量の水が必要となる。飲み水があればいいという認識が一般的であるが、食べ物確保のための大量の水が必要になることも考えなければならない。飢餓は大変恐ろしいことである。
 人口の増加に対し食料を輸入できる経済力があればいいが、多くの発展途上国は外貨を稼ぐ産業もなかなかない。こういう国で人口が増えることはますます、国内の資源の奪い合いをもたらすこととなる。また食料援助が求められるなど、より自立できない構造になっていく。穀物からの燃料生産が本格化すると穀物の値段はもっと上がる。
 したがってこれらの発展途上国では人口増をできるだけ抑えることが最大の課題ではないのだろうか。
 逆浸透膜など水資源生産技術が進歩しているといっても、この種の水を穀物生産に使った場合、価格は何倍にもなる。
 バーチャルウォーターは今のところ食べ物が中心になっているが、ほかにも水を使うものが沢山ある。新聞紙など紙のもととなるパルプの原料の材木、衣類の綿、羊毛などいろいろある。
 一方、我が国で食べ物の相当部分が消費されないで捨てられているという話がある。この量は、家計調査からの4%、消費カロリーからの3割などいろいろ数字があって推定が難しいが、1割とすると、家庭で水道に使われる水に匹敵する量が結果的に捨てられていることになる。
 直接ではない水の使われ方をもっと注視していく必要がある。