逆転の思想-52
              水道公論2007年 1月号


  余裕と裁量
 昔はそれほど乗降客がなかったのに、業務地域の拡大が及んで乗降客が急増し、朝晩のラッシュで危険な状態になって、駅舎の拡張をしている地下鉄駅がそこここに見られる。
 ホームを2〜3m広げるだけなのに、長期間の工事となり、乗降客にも大きな不便をもたらす。また、多額の費用もかかっているのであろう。バリアフリーのためのエレベーターなどの工事もスペースが少ないため、難しい改造となっている。
 最初から大きく作っておけばよかったが、その分建設費用が多額にかかるのであれば、これも難しい。ただ、費用増がそれほどかからないなら、最初から空間に余裕を持つことはいいことである。利用率が悪いなどと、プロジェクトのいきさつや増加費用に関係なく非難することは問題である。駅構内でコンビニ、コーヒー店などを余裕スペースに展開させることが最近始まったが、コストを考えながら、選択肢、応用性などバリエーションを広くとれるようにしておくことは非常にいいことである。
若い頃処理場の用地補助をどこまで認めるかの制度化の作業を担当した。当時は高度処理の概念もなかったし、臭気除去技術も未発達で、迷惑施設を持ち込むという地元の反発に対し、緑地帯確保など環境対策の意味あいも強かった。説明資料を工夫して、処理場は施設面積の4.5倍までというのが認められた。
 これまで下水処理場立地の了解に際し、どれくらいの苦労がなされたのだろう。しかし、あとになって効率的執行の見地から、こういう事情が理解されなくて買収面積が広すぎるのでないかとされるケースが多い。立地を受け入れてもらうためにできるだけ環境を良くするのは非常に大切なことである。単に施設が入ればいいという世界ではない。広い緑地空間があれば、臭気、騒音が出たとしても軽減され防災上も望ましい。土地が空き地として無駄に使われているのでなく、緑地確保ができる。施設の場合は先行投資が問題になるが、土地はそういうことがない。将来施設を作り替える必要が出てきたときも掘削の影響範囲が広くとれるので仮設工事を減らすことができて、大幅なコストダウンをもたらす。 新潟の震災の時、施設が被災したが敷地内に臨時の沈殿地を作って急場をしのぐことができたのもいい経験である。
 一方、公共事業で将来拡張を考慮した設計が各地で見られる。高速道路で将来片側2車線になる道の片側だけ作って、一車線対面交通にするなどである。こういう事業計画で、将来の手戻りを最小限にすることを厳守することは、当初の施設が利用しにくかったり、景観上良くなかったりなどの問題を生ずる。放置されているような空き地をなくすなど、バランスを考えた事業計画が求められる。
 民間並みの効率運営が求められるようになった公共事業も、担当者の裁量で余裕や臨機応変の措置ができる事業運営システムにしていかなければならない。