逆転の思想-48
                水道公論2006年 9月号


  サービス業務の評価

 相当前になるがソ連の雪解けが始まって、シベリア鉄道の取材ができるようになった。鉄道の紀行テレビ番組の中で女性車掌が、乗客のお弁当を配っているのを見て奇異に思った。日本の鉄道職員は食事サービスと全く別の世界であり、それが当たり前の世界になっていたから不思議に思えたのだろう。
 しかし旅客機では昔から客室乗務員がいろいろなサービスを行っていて違和感がない。鉄道業務は官業であるとの感覚で捉えていたと思われる。鉄道サービスの中に食事が含まれれば、社員が協力するのは当たり前の話である。
 10年以上前にアメリカ東海岸のバルチモアで閉鎖性海域の国際会議があり、参加する機会があった。その時の懇親会はなんと鉄道博物館の中で行われたのである。懇談会であるからアルコールも出るし、酔っぱらって展示物をこわされるかもしれない。この辺の管理はちゃんとしていたのだろうが、日本では考えられないことであった。
 しかし指定管理者制度により、公共施設の効率的な運用が進むと今後こういうことも起こりうる。
 桜や紅葉で有名な庭園も季節的に時間延長・夜間サービスしたり、また休園日での臨時営業も常識になるであろう。
 沖縄の海洋博記念公園は那覇から高速道路で1時間かかる北部にあってちょっと遠い存在である。ここにジンベイザメで有名な美ら(ちゅら)海水族館ができたとき、公園の週1回の休日をなくした。この水族館は建設以来、人気スポットになっており、連日多数の観光客が訪れている。週1日の休みがあると多くの人が不便だったと思われ、無休なので観光計画も建てやすいし、公園側も収入が増える。ただし休園日をなくすということは、人員配置を相当見直さないといけないし、人件費も増加する。公営の場合は事業者の判断だけでなく、いろいろなところにお伺いをしなければならず実現にはなかなか難しいところがある。この点で経営者の判断が重要である。公的な管理でも、事業運営がしっかりしていればこういうこともできる。
 公共の施設の管理を民間にお願いする指定管理者制度であるが、比較的わかりやすい公園運動施設の管理などは、けっこうよそから善し悪しが判断できるが、老人福祉施設など複雑なサービス業務の評価は難しい。一番声を出さなければいけない入所者は判断力が衰えている人が多いし、また管理者に遠慮して何も言わなくなってしまうことになりがちである。介護の仕方、病院の世話、食事の世話など個人によって差をつけることも可能である。早く亡くなった方が結果として経営上有利であることが気になるものである。また、こういう施設のサービスの評価は表からなかなか判断できない。この種の業務の公正な評価は相当の作業になると思われる。難しいサービスの適正な評価ができるようにならないと様々な難しい問題が起こると考えられる。新しい制度を運用して行くに当たり、新たな問題が起こらないように配慮し、対処していくことが重要である。