逆転の思想-44-

                水道公論2006年 5月号


  現場業務の重要性
 公務員総数の削減が再び強く叫ばれている。これまでも幾度となく人員削減は実施されてきた。ただその中身を見ると、現場に貼り付いている人を減らして調整していることが多いようである。本当は仕事の簡素化、仕事の中身の再検討が求められるのであるが。IT化により仕事の効率が上がり、外部に任せられるということで、現場体制が大幅に削減されてきている。建築確認の人員などもこの影響を受けていると思われる。本来IT化で一番業務が効率化されるのは、間接部門である。
 一方、民間で生産性の高い、優良な企業、復活した企業は、上層部が現場の状況や声を良く聴いて、いい仕事が効率的に実施できるように改善している。現場を大事にする企業が優良企業になっている。
 IT機器の導入で、仕事は効率化しているはずであるが、一方で公務員の生産性の向上に反する作業時間は増えていると感じる。この原因として様々な要因がある。一つが業務の簡素化の遅れである。例えば各種制度であるが、簡素化どころか、数がどんどん増えて、複雑になっている。
 業務量を多くしている原因の1例として、大きさに関わらず何か報道されるとトップがすぐ適切なコメントをしなければならないような状況にさせている風潮がある。このため、何かあると瞬時にトップまで連絡が行くような体制になっている。このために中央官庁のような大きな組織では、情報の伝達、対処方策の根回しなど、莫大なマンパワーが消費されているように感ずる。昔のトップは新聞で大きく批判されても、おうようで、その処理は担当部門に任されていた。それで済んでいた。結局は担当部署が頑張ればいい話なのである。なんでもトップを引っ張り出すという風潮が世を支配している。職員の多くの作業時間が説明や根回しにとられる。またトップのなすべき本来の大所高所の検討時間もとられる。一方、根回しの過程で、革新的な提案は消え、常識的なものとなってしまう。目黒のサンマを連想するものである。
 現場部門を縮小することは、公務員にとって貴重な現場経験をなくしていくことになる。行政の透明化、競争契約社会への移行に伴い、担当する公務員はどこでも経験と高い専門性を求められるようになりつつある。一方で、現場業務の担当範囲が非常に広くなり、現場部門にいながら現場に行けず、経験がつめないという現象がどこでも起きている。また、現場を経験してきて、問題の処理能力があって、今の業務を切り盛りしている貴重な人材がこれから退職していく。
 この結果、今後は業務の実態が分からず、仕事が形式的になり、効率化や、臨機のいろいろな判断ができにくい状況になっていくと思われる。
 かたや現場業務を外部委託することにより、問題点が責任者に上がりにくくなることもある。
 現場体制を縮小するつけは非常に大きいのでないだろうか。今後の課題は現場に精通した専門家の養成である。国では各省の人事交流を進めているが、民間企業も含め現場での経験を義務化することも必要であると考える。
 ただ業務の簡素化が一番緊要でないだろうか。