逆転の思想-43-
                水道公論2006年 4月号




 競争・契約社会と検査体制
  建築の偽装設計では、多くの案件があったのに、公共団体、民間審査機関の誰もが問題を見抜けなかった。これまで建築確認のチェック事項は、構造というよりも、容積率、用途地域への適合など周辺に害を及ぼさない観点の問題が多く、そちらの比重が高かった感がある。
 そもそも日本の検査体制は信用が大事な協調社会で、皆いい仕事に励むことを前提にしている形式的なものが多い。しっかり検査をしなくても信頼関係で良質なものができる世界であった。
 今回の意図的な偽装設計はそれまでの流れと全く違う世界なので、いろいろな安全弁を全部突き抜けてしまった。
 建築物の安全確認手段として、チェック項目が非常に広い建築確認の他に、住むことの観点からの住宅の性能評価がある。住宅品質確保の促進等に関する法律による、客観的な評価をするもので、設計に対する評価と工事に対する評価がある。
 検査は9の項目について5段階で評価するもので、構造であれば最高の5は建築基準法レベルの1.5倍、1では建築基準法レベル。この評価は強制でなく、マンションでは実施例が少ない。ただ今回の偽装設計対象箇所のなかで、設計段階で耐震構造1の評価を得たもの、つまり問題ないと評価されたものがあった。
 検査料であるが、50戸くらいのマンションの場合、イーホームズ社のホームページで見ると、建築確認で1戸1万円程度。住宅性能評価では設計時1.5万円、工事の性能評価も入れて4万円くらいで、性能評価は建築確認よりも作業内容が濃いことを示している。性能評価でもパスしてしまったことからこれよりよりも綿密な検査をしないと偽装を見抜けないことになる。人手のかかる、現場確認も必要となる。
 しっかりとしたチェックには数倍のコストが推測される。検査のお金が大きく増えることについて異論が多いと思われるが、契約社会では仕方のないことである。契約社会では、契約書類に従って物事が進行し、作業の各段階で検査がなされる。サービス的な仕事や手戻りなど契約以外のことは契約変更による工事費増の対象となる。検査も省略すると手抜きも自在になる。適正な検査が実施されないと、とんでもないものができあがる。
 これまでの協調社会の方が総合的なコストはずっと安い。仮に、設計性能評価を中心に強化して3倍の検査コストがかかるとすると一戸当たり12万円。これをどう見るかのことがある。ただ検査のお金が増えるといっても、マンションの仲介手数料などからすれば、はるかに安いものである。
 真面目に仕事をした工事まで、手をかけた検査をするのは無駄に見えるが仕方がない。
 あわせて、建築確認など公的な業務の責任範囲をはっきりさせて、隠れ蓑にされないようにしておく必要がある。
 指定された優良企業について抜き取り検査による簡略化を規定するなど、協調社会の制度を残していくこともある。物事が変わる場合、いい面と悪い面が必ずあり、その対処をしていかなければならないと考える。