逆転の思想-42-
                水道公論2006年 3月号


 分業とチームワーク
 偽装設計事件で1つの物件に沢山の会社が関わっていて、責任の所在がはっきりしなくなっている問題点が浮き上がってきた。
 建築の分野では専門化、分業化が進んでいて、1つの建物を造るのに多数の人が関わるシステムになっている。この前経験した小さいマンションのリフォーム工事でも、内装、水回り、建具、電気など多数の人が出入りしていた。不具合があって元請けに頼んでも、その専門の人が一緒に来ないとらちがあかなかった。専門の所に直接頼むと元請けに言ってくれないと動けないと言われる。
 多くの人が関わる1つの仕事は、連絡調整、相互理解など皆が協調していってはじめて出来映えがよくなる。この分業システムにも大きな影ができはじめていると考える。いい建物を造ろうと言うことで多数の人が協調し、互いに信頼し、立てあって仕事をするのが日本人のこれまでのやりかたであった。1つの目標の下に皆が協力して物事に当たっていく日本型協調社会を前提にしている。
 しかしこの日本型チームワークのシステムがうまくいかなくなってくると分業制は様々な問題を生ずるようになってくる。1つが自分のことだけしか頭になくなることである。協調システムの中で少しずるしてうまいことをやる人はいるが、目立つほどではない。しかし、うまいことをやることを皆が考えるようになると、仕事の目標はどこかに行ってしまう。また自分の分担さえしっかりやればいいということになると、隣のチームの仕事との融通がなくなり、境界がお粗末になったり、全体として価値が落ちてしまうことになる。 また相互理解のことがある。仕事の進行によって起こる作業の再調整では必ず誰かが譲ることになる。隣接の作業で問題を抱えていない側がちょっと譲るだけで、もう片方の難作業が解消することがある。このとき全体の目的が共通で認識されていないと、合意が難しくなる。これまでは、お互いに尊重、理解し合って仕事を進め、隣で間違ったことをしているとおかしいのではと注意することも行われてきたが、今はそうなっていないようである。施工の順序、工程管理など乱れてくると、各チームが大きな影響を受け、チームワークがしっかりしていないと紛争のもととなる。通常はしっかりした元請けが調整を行うものであるが、分業化に慣れ、実作業の知識、経験が乏しい状態になりつつある。
 多数のグループが同じ現場に入る場合、欧米型の契約社会システムでは仕事の範囲、順序など前もって細かく規定しないと仕事が円滑に運ばないことになり、運営が非常に難しいことになる。
 今、どこの世界でも分業化に慣れてしまって隣で何をやっているかが分からない世界になりつつある。これは大きな問題である
 集団でのチームワークは、それほど勤勉とは言えない日本人が、これまで成功してきた非常に大きな要素である。このことは日本であまり認識されておらず、文書化もされていることは少ない。
 しかしこの世界が崩れつつある。今後、チームワークの重要性を皆が認識するよう、徹底していかなければならないと考える。