逆転の思想-34-
                水道公論2005年 7月号


 自然の変化

 もうすぐ夏がやってくる。昨年は史上最多の台風の来訪を受けたが今年はどうなるだろう。夏と言えばセミ。2000年の8月に下水道新聞の随筆「エアレーション」で、クマゼミのことを書かせていただいた。関西で耳に染み付いたクマゼミの鳴き声を朝、夢うつつで聞いたような気がして、温暖化現象によって東京でも聞かれるのはいつのことになるだろうかという主旨であった。松戸の団地に住んでいて、人口密度は高いが、緑地に多数の大きな木があり、夏はセミが沢山鳴いていた。
 次の年の秋、松戸から葛西に引っ越し、翌2002年の比較的早い夏の朝に、なんとクマゼミの声を聞いたのである。その日の一回限りでなく、その後何回も聞いた。
 それから毎年、ミンミンゼミとクマゼミの鳴き声を聞いている。今の住居は松戸より規模のずっと大きい団地で、人口密度も高いが、同様に緑地が多く、松戸ほど密度は高くないが、多数の木々が植えられており、セミも住みやすいと考えられる。事実、夏はうるさいくらい。鳴き声からはミンミンゼミが一番多いようであるが、ベランダに飛び込んできたり、路上に落ちているのは殆どアブラゼミなので、優占種は変わらないと考えられる。クマゼミの声は特徴があり、家でも、団地内を歩いていても何回となく聞いているが、その鳴き声故に存在感が大きいのかもしれない。ともかく東京に定着している。ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、カナカナなどセミは鳴き声に特徴のある種類が多く、見えなくても他の昆虫に比べて存在を知ることが容易である。でも、自然からますます遠くなっている今の子供たちが鳴き声を記憶しているだろうか。
またセミは鳴き声で目立つのでこういう生息の変化を感ずることができるが、目立たない多くの生物でも同様に生息域の大変化が起こっていると創造される。
 セミは生まれてから地上に這い出してくるまで何年か地中にいるのでそれほど移動性は高くないような気がするが、クマゼミは昔、九州の蝉だったのにもう東京まで来ている。
 先発隊はすでに相当北上しているのだろう。
 自然の変化と言えば、滋賀県庁の先輩から昭和二十年代に琵琶湖南湖で結氷があった話を聞いた。今では信じられないことである。
 ちょっとしたことで、印象が変わってくることもある。根雪は相当寒い地域での事と思われるが、東京でも1月に降雪があれば、けっこう溶けないで残っている。ただ東京では暖かくなり始める3月に大雪が多いのですぐ溶けてしまう。
 世の中はどう変化していくかわからない。様々な、普通のことを記録していくことは重要なことである。