逆転の思想-33-
                水道公論2005年 6月号


 手続文書の住所表示

 法令の手続きが複雑で、様々な弊害をもたらしている例として不動産購入に関連した手続き書類の住所表示がある。
 住宅を購入するとき、売買契約の他にローン契約、不動産の登記手続きが必要となる。この際、売買者を確定するものとして氏名の他に、住所が重要な事項となっている。住所の証拠として、住民票が必要になる。このことが問題の発生点になる。
 通例、売買代金の支払いと家屋の受け渡しの日に、ローン契約、不動産登記申請書類作成が同時になされる。受け渡しの際に、引っ越し済みにはできないので、ローンや不動産登記申請は、旧住所であるのが自然であるが、旧住所で申請した場合、あとで住所変更手続きが必要になる。この費用と手間はけっこうかかる。このことから、受け渡し前に住所移転をして、新住所でローン、登記の申請をすることを勧められる。
 住民票の移転を、引っ越し前に行うことは法律違反になり、多数の人がこの違法行為をしていることになる。売買、登録など基本的なことでなく、付随的な手続き制度のために違反をせざるを得ない状況になっている。住宅購入によって住所は変わるものであり、これが手続き書類で重要視されることがおかしいのではないか。印鑑証明のような付属文書であればいいが。氏名だけで確定できないというならなら、戸籍の住所表示も認めて、戸籍の一部を証明するシステムなどを使えるようにすれば、問題は少なくなると考える。引っ越ししても変わらないという住民票コードはパスワード的な使われ方をしているので契約などに使えない。
 旧住所で登記申請した場合、住所移転に伴い、登記の住所変更をしなければいけない。国に納める費用は2千円くらいであるが、司法書士にお願いするとなると委託費用がかかる。自分でやることもできるとされているが、慣れない漢数字を使う文書作成、法務局へ何回も足を運ばないといけないので、手がかかる。
 もっとひどいのは金融公庫のローンで、融資の条件として、申請対象の家に住んでいることと、不動産の登記がなされていることが求められる。不動産の登記にはけっこう日数がかかるので、つなぎ融資という、公庫融資がおりるまでの期間、銀行が短期融資を行うことが当たり前になっている。つまり、金融公庫の融資は、ありえないことを要求しているのである。登記が終了しているのが絶対条件であるならば、公庫融資の中に何故つなぎ融資の仕組みが入らないのだろう。一個の融資のために2つの融資手続きがなされることは、金銭上も事務上も無駄である。
 公庫融資のように、多数の手続きが実施されている手続きでは、つなぎ融資のような抜け穴も常態化しているが、事例の少ない多くの手続きでは、当事者が何も不正なことをしていないのに制度違反におちいり、その対策に頭を非常に悩ますことが非常に多い。こういう手続き制度こそ改革すべきものである。