逆転の思想-31-
                水道公論2005年 4月号


 事業運営の判断

 プロジェクト管理において、官民の行動の違いを具体に考えられる例として、ネックの処理がある。ある事業が進み、これまで投資した額も500億円。ところが大事なところの百平方米の土地が買えなくて、稼働時期が伸びそうになっているケースを考える。
 500億円の利率が3%とすると、月当たり1.25億円の利子を払わなくてはいけない。百平方米の地権者は、その土地を活用して収益をあげている。相場であれば買収費は1500万円。地権者は5000万円でなければ売らないといっている。
 公共の事業では、客観的な評価額を超えた額の用地買収は許されない。用地確保を適正に執行しなければいけない立場としては、事業の遅れによる公益の損失から、強制執行を考えようということになる。
 一方、ものの値段は需要と供給のバランスのとれたところで決まる経済の基本によれば高額で契約してもいいということになる。プロジェクトの経済的成立が課題の民間事業では、妥当と考えられる交渉結果の額を払う価値があるかどうかの判断になる。プロジェクトの進行を遅らせることの損失である1.25億/月が避けられるものであれば受け入れることになる。
 かたや、公共の事業で、用地買収単価を大幅に変えて運用すると、安い値段で早期に契約した人が追加を要求することも考えられる。
 事業コストを重視するとなると、用地取得のような予測の難しい要素が解決しない前に、大きなお金をつぎ込むことはできない。またネックの解消ができた時点で急速に進行させることになる。
 昔、事業体で下水道事業を担当したとき、地元地権者が了解しないと新規事業化をしない方針で臨んで、幸い、トラブルが最小で進めることができた。新規事業の着手表明に関することは、行政を進める点で、表への出し方が非常に難しく、根回しが遅れると、事業着手の表明が先行するのを抑えることができず、様々な大きな障碍が生ずる。苦しいが、準備が整うまで、事業着手しないようにすることが大切である。
 一方で、効率的な事業執行を重視して一時期に急いで仕事をするとなると、建設作業従事者など全国から集中して集めることになり、地元への経済効果がなくなってしまう。
 新中部空港建設で、プロジェクトマネージメントが効率的に行われ、費用が少なくて済んだと好評である。
 また、公共の事業にも、プロジェクトの進行管理を優先する動きがでてきているので事業効率の改善は進むと思われるが、一方で公共の事業がいろいろな側面を持っていることを、世間によく理解してもらうことが必要である。