逆転の思想-30-
                水道公論2005年 3月号


 記録の整理と保存

 我が国では古来から火山活動、地震災害など、いろいろな事件が記録に残されており、火山や地震研究で貴重な資料となっている。
 また、大気中の二酸化炭素濃度が長期にわたって上昇し続けていることが実感できるのは、ハワイで長期間地道な観測が続いているからであろう。温室効果ガスが問題になったのは最近であり、よく長年継続して計測してきたものである。我が国の公共水域の各種水質調査も、時系列的に変化を把握できるようになっているといいのだが。
 現在のもろもろのことを保存することは非常にいいことである。養老武司さんの講演で、最近の日本人の骨格が全く保存されていない話を伺った。皆火葬にしてしまうからとのこと。将来になって骨になんらかの問題が出てきた時、過去にどうなっていたかわからないと、時間的な追跡ができなくて困ることになるのだろう。
 一方、イギリスではけっこういろいろなものを保存していくそうである。
 身の回りで考えると、いままで経験したことで古いものになると記憶があやしくなり、文書で残っている記録を見て、間違って思いこんでいたことがわかることがある。
 これまでの下水道建設でいろいろな経験、大きな仕事があったが、どれもあまり目に見える形で記録が残されていない。事業が急に進んだため、記録を作成する余裕がなかったといえる。50年代に琵琶湖を埋め立て、流域下水道の処理場建設で事業が行われた。埋め立て工事は、浚渫の汚れが出ないように、立派に行われた。20年経って、滋賀県に勤務していた頃、この貴重な事業記録をまとめるように頼んだことがあるが、すでに計画、工事などの記録が殆ど残っていないということであった。印旛沼流域下水道の暫定下水処理場の記録も、どの程度残されているのだろうか。
 一時、記念館ブームで何故か外国のものの博物館など大きなお金が投入された。自分のことをしっかり保存した上ならいいが。
 イラクの国立博物館の略奪報道は、現代の歴史記念物保存方法に大きな問題があるということを示したものと考える。昔のものをなんでも掘り出して、1カ所に集中保管するとそれが何らかの原因で破壊された時全てが失われる。中国の文化大革命の時に、昔の資料が相当破壊されたそうであるが、政治体制が変わり、昔のものをなくしてしまう権力者が出てきた時、博物館に全て収納しておくと簡単に一切の歴史記念物を消すことができてしまう。天災や戦争でも、一挙に失うこともある。こういうことを考えると、未来の人が掘り出さないように工夫して作られた、ジンギスカンの稜はよく考えたものであるといえる。
 広範囲にわたる様々な可能性も考えて、歴史的資料の保存をしていかなければいけない。