逆転の思想-22-
                水道公論2004年 7月号


 特許の運用にみる米国の柔軟性

 カメラメーカーをはじめ多くの会社が巨額の特許料を取られたり、計算機、映像技術の特許争いなど、米国の特許戦略に蹂躙されている感がある我が国の状況である。1876年のベルの電話特許申請が2時間早かったために発明者として認められた話しなど米国では知的所有権について昔から厳しい権利設定がなされているというのが一般的感覚である。
 しかし全く反するような過去の話がある。特許関係者では知られているが一般には知られていない。
 戦後、日本のあるミシンメーカーが特許を持つ米国のものをそっくりまねして、国内だけでなく、米国にまで非常に安く輸出したのである。たまりかねて、米国のミシンメーカーが裁判に訴えた。 その結果は、なんと米国メーカーの敗訴で、理由は米国製の高級ミシンを買えないような貧しい人は、安い日本製のミシンが買えるので大きな恩恵を受けている。特許を振り回して、貧しい人が安いミシンを買えないようにするなんてけしからん、というようなものだったとのこと。この判決が異例なものかどうかはわからないが、この風潮がしばらく続いたから一般的な考えとなったのであろう。
 その後、レーガン大統領になって知的所有権を重視するようになり、今のような厳しい時代になった。
 弱いうちは大様に、強くなってくると強くたたく。国益の大局を考え、臨機応変に政策を変える。こういう国とつきあっていかなければいけないのであるので、国のシステムが相当柔軟ににならないといけない。
 一方我が国を見ると、戦前に作られたような苔の生えたような法律がそのままで硬直化している感がある。
 新しい二輪の乗り物であるセグウェイでイベントをしたところ、主催者が書類送検され、道交法違反で免許停止になってしまった。違反理由は無保険運行(原点6)であるが、自動車損害賠償責任保険に申請しても、区分の該当がないため受け付けてくれない。構造改革特区の申請も拒否されたとのこと。最高速度が19キロしか出ないように作られているので自転車に近いものと考えられるが、動力が付いているので自転車と違う扱いとなる。
 我が国でこの乗り物に乗れるようになるためには相当な制度改正が必要であり、改正を求める声が大きくならないと、作業着手も進まない。出だしでだめと言われてしまうと声も上がらないだろう。
 世の中の変化がますます早くなっているのに、制度の変更が遅れて、新しい発想の芽が育たない事態を根本的に変えていく必要がある。
 簡単な制度改正も非常に手間がかかるようにしてしまっている行政システムの基本が一番の問題であると考える。常識の世界で動くのでなく、なんでも制度化されていないと気が済まない世の中も変えていかないといけない。