逆転の思想-18-
                水道公論2004年 3月号


 人材の活用と仕事の評価

 人の進化の過程で、新しい発見、創造のほか、失敗を生かすことも大きな前進の要素になっている。失敗をできるだけ冷静に分析してその後の進歩に役立たせることである。
 その際どのようにして人材を活用していくかの課題がある。
 風による振動が大変に大きくなることがまだわからない時代に設計され、強風によって破壊された米国のタコマ橋の落橋は映画に撮られているので映像を何度も見る機会がある。この橋は原因分析のあと、同じ設計者が再設計をおこなったとか。
 米国では第二次大戦中で当初の戦闘で敗北した指揮官が再登用されて活躍している。ただし失敗や敗北の際、綿密な調査は行われるようである。
 ロンドンの3大ミレニアム事業の一つであった、テームズ川にかかる斬新なデザインの歩道橋はオープンした日に多数の人が訪れ、揺れが激しくて使用できなくなった。調査が行われて確か、群衆の歩行により振動が増幅されたことがわかり、対策がなされて復旧したが、この橋の再設計も同じ設計会社が行ったそうである。失敗にも色々なケースがある。だれにもわからなかったことが原因なのであれば一番詳しい当事者に再度やってもらうのがいい。
 日本ではどうだろうか。例えば事故が起こると責任の有無に関わらず、執拗に犯人捜しが行われる。またものごとがうまくいかなかった時に、当事者の責任がはっきりしないままその場から退場ということが多いように見える。当事者が皆悪いことになって、再活躍の場がないことが多い。これは人材の損失である。
 海軍の明治以来の戦記が悪者を出さないように指揮官や司令部が皆正しい判断をしてきたと書かれていたという話を最近読んだ。指揮官が皆勲章をもらえるようにするため失敗者を出さないように話を変えていたらしい。大きな失敗をしてもその後に生かされていなかったようである。あまりひどいので正しい戦記が秘密に作成されたが、どれくらいの人が見る機会があったのだろうか。こうなってくると先人の判断の善し悪しや失敗が活かされない世界となってくる。
 どうも日本の社会は、個人の仕事についてマイナスの評価をすることが苦手のように見える。目標に向けてみんなで頑張ろうという協調社会から来ているのであろうか。各人の職務範囲をはっきりさせない伝統もマイナス時の責任範囲が広がってしまい、個人評価がしにくくなる大きな要素となっていると考える。
 現在多くの組織で業績評価制度が導入されているが、評価をする人たちには苦しい判断のようである。
 マイナスの評価をすることが難しい人情のもとでは、プラス面を評価するシステムならいいかもしれない。新しいアイデア創出だけでなく仕事にミスがないということもプラスの評価になる。

 
協調社会に合った人材評価活用システムの整備が求められる。