逆転の思想-15-
                水道公論2003年12月号


 社会的コストと提案型の事業執行

 情報化社会の形成は公共機関だけでなく企業活動など、内容公表が義務化され、様々な活動がガラス張りに近づく方向にある。殆どが上場企業である大手企業などでは、企業活動での利益の行き先が、税金、株主、開発、新規事業などどこにいくのか見えるようになってきている。コンプライアンス活動、労働安全管理など公正な事業活動の保持がある。また製造者責任、製品リサイクル、化学物質管理、排出規制など各種法体系によって企業活動が厳しく規制されている。
 こうなると私企業も官庁のように、公の存在の色彩が強くなってくる。民営化が大きな議論になっているが、私企業が公共的な存在に変わりつつあることも、よく認識されていかなければならない。
 様々な企業活動が透明化されてくると、社会全体のコストというものを、もっと考えていくべき段階に入っている気がする。また様々な行動の、他の組織への影響も考えていかなければならない。
 公共事業の執行形態として、プロポーザル、デザインビルドというような提案型のものが出てきている。建築のコンペもそうであるが、いい提案を考えていくためには、設計の際、基本仕様の他に、周辺環境、既存施設の内容など広範囲に調べておかなければならない。
 一般的なコスト縮減方策の性格を考えると、通常に採用されるのより、経済的であるがリスクが大きい方法を、現場条件を吟味して採用可能と判断する訳で、周到な調査で見つけ出された重要な情報がリスクを軽減させている。
 通常の設計は設計会社一社の作業でいいが、プロポーザル、コンペのような場合、何社もが同じように設計条件、現場条件など検討しなければならない。コスト削減方策などを提案するためには、より詳細な設計情報を駆使しなければならない。この作業は最も優れた能力が要求される価値の高いものである。選定されなかった企業にとって、これらの作業は実りのない出費になり、企業全体の経費でまかなっていかないといけない。発注者にとっては負担は変わらないが、社会全体の費用から考えると、高額の余計な作業が発生していることになる。基本的には建築コンペで一部見られるように発注者が各社の作業費を負担すべきものである気がする。
 デザインビルドについてよく応募が少ないと発注者側の事務当局から苦情を言われることが多いらしい。しかし企業にとって見ると、真剣に取り組むためには相当の人手や費用が必要になる。受注できなかった場合、支出した分が無駄になってしまう。
 多くの企業が提案型の応募に参加した場合、社会全体の費用は大きく膨らむことになり、結局、コスト増大を招くことになる。優れたアイデアや技術を活かす提案方式を定着させていくため、この辺のところも考えていく必要があると思う。