逆転の思想-11-
                水道公論2003年 8月号


 自動安定機構

 長期間に渡って国家体制、国力を安定して維持していくことは大変難しい。我が国は明治維新とアメリカによる占領によって体制が断絶している。イギリス、アメリカ、スイス、北欧などを見ると激動の時代にあって、ここ百年は国家体制の大きな断絶がなく、国力が維持されている。一方で連続してるように見える国で、かって豊かであったアルゼンチンの凋落がある。
 国の安定運営という点から見ると、江戸時代は長い戦国の世の反省に立って、安定が計られるように周到に作られた国のシステムであると考えることが出来る。また明治維新は内なる改革だったため、断絶でなく歴史の流れに沿った変革であったとも言える。一方アメリカの占領によるシステム更新は断絶に見える。
 今後長い期間に渡って豊かな社会を保持し続けることは非常に難しい。大切なことは世の中の変化に応じて誤りがないように社会経済を変えていくことができるよう国家システムに自動安定機構を確立しておくことである。適正な方向修正のためには公正な判断のため能力ある専門家の重用、うまくいかなかったらすぐ方向転換できるような柔軟な新規施策実施と、客観的なデータを使った過去の評価が不可欠である。
 消費税導入と税率引き上げの時を考える。世間では消費税でとんでもないことになるという話ばかり流された。導入後、今になっても消費税によって世の中がどう変わったのか、どういう決定が良かったのか報道が少なくさっぱり分からない。なにもないということは大したことはなかったということなのだろうか。しかし、こういう感情的に思える大騒動が各種変革の芽をつんでしまった。
 世界的に低い我が国の消費税率引き上げは今後の大きな課題であると考えられる。しかし、まじめな議論、またこれまでの評価や反省がはっきりしないまま次に進むことは大きな間違いを引き起こすことにつながる。
 日米安保も同じようにはっきりしない。六十年代前半は安保反対の大きな運動があり、世論によれば国の体制がひっくり返ってもおかしな状況でなかった。もし体制が変わっていたら、恐ろしい世の中になっていたと考えられる。これについても、どの方向にいっていたらどうなっていたかなどの分析、評価を聞かない。
 このように国の大きな方向付けを行ったこれまでの歴史について評価、反省が聞かれない。どうも世論は情緒的に流れて行くことしか考えていないように見える。
歴史的に見ると敗戦の断絶は単なるリセットだったかもしれない。
 変革が必要なのにしないでおくと矛盾がどんどん大きくなっていき、皆それに縛られて身動きできなくなり、国全体が硬直化してしまう。
 戦後体制が結局リセットだけだったということになると、我が国の長期安定は非常に危ういものということになる