逆転の思想-6-
                水道公論2003年 3月号


 規制と利用者リスク

 中国製ダイエット食品の健康被害が大きな問題となった。様々な規制が及ばない外国からの輸入品は特に注意して購入しなければならないのに多数の人が規制がしっかりしている国内と同じ品質概念で服用してしまった。
 ここで思い浮かぶのは踏切の横断の時である。昔は踏切に警報機も遮断機もないのが多く、渡るときは左右を良く見て列車が来ないのを確認して横断していた。最近は殆どの踏切に警報機と遮断機が設置されている。
 これに慣れてしまい、まれに何もない踏切を通る際、左右を確認しないで渡ってしまい、あとで危険な思いをしたことがある。つまり、安全に慣れてしまい、リスクを感じなくなってしまったのである。
 エレベーターは昔、結構停止位置がずれていたりして位置を確認しながら乗っていた。止まる位置が床面とずれているとすき間に挟まったり、引っかけたりして金属の角張った材料により思わぬ大怪我のもととなる。現在は床面とぴったり同じ位置に止まる事に慣れ、ろくに下を見ないで乗り降りしている。このため時として位置がずれると足を挟まれたりして怪我をすることとなる。
 安全に慣れてしまった日本人が観光旅行でスリや盗難のいい鴨になることもおなじようなことを意味している。
 食品についても国内では品質の確保、化学物質使用の規制、誇大広告の禁止など様々な規制により、品質が確保されており、これにすっかり慣れてしまい、公告を鵜呑みにして外国製品についても同じような品質管理が行われているとしてしまったものと考えられる。
 これほど安全第一の国になってきたのに、列車のホームの転落防止策の前進がないのは不思議である。中央線などひんぱんに人身事故で電車が止まっている。
 状況は分からないが、ホームからの転落が多いのではないかと思われる。ゆりかもめや地下鉄南北線のようにホーム側にもドアを設けるのは難しいかもしれないが、ある程度の転落防止柵はなければいけないのでないか。道路や公園の池では、フェンスやガードレールなどの転落防止施設の管理瑕疵について過剰と思えるほど管理者の責任が厳しく追及される。
 一般の歩行空間が非常に安全になっている状況では昔のままのリスクのホームはその危険度合いが非常に大きくなっていることになる。
 何事も安全になっているように見える世界でもいろいろなところにリスクがある。安全に慣れて、リスクを忘れないようにしないと、思わぬ災難が降ってくることになる。