臭覚
ラベンダー大学第4講
大気・気象と植物
浦野慎一講師
講師名 浦野慎一
うらの しんいち 昭和23年、福岡県生まれ。
農業気象学を専門とし、物理学的立場から気象と生物の関係を研究している。
現在は北海道内の湿原や湖沼、アラスカの凍土地帯などで調査を行っている。

  ラベンダー大学を開講して今回は第8回目です。 ラベンダー大学はむずかしい大学ではありません。  
  ラベンダーに関連する幅広い知識をみなさんで楽しみながら学んでいきましょう!!


植物の蒸散と気象
 植物は光合成で水を利用していますが、その量は植物全体の水消費量からみるとごく僅かです。植物の水消費の大部分は、気孔から水を水蒸気として放出する蒸散に使われます。植物の蒸散は、日射で高温になった葉面を冷却する働きがあるほか、根から吸収した水分を茎の導管を通して葉体まで引き上げるという重要な役目を果たしています。植物は養分が溶けた水溶液を根から吸収しますが、その水を引き上げて植物体に配分するのは蒸散で生じた吸引圧とよばれる力なのです。
 植物の蒸散は葉の気孔を通して行われますが、植物は気孔を開閉(開度を調節)して蒸散量を調節しています。気孔を一杯に開くと蒸散量は大きくなり、逆に閉めると小さくなります。ところが、気孔の開度は光合成に使用するCO2の吸収量にも関係しています。CO2吸収量は蒸散量とは逆に気孔を開くと吸収量が多くなり、閉めると少なくなります。気孔の開度は植物が調節していますが、これには周辺の気象条件や土壌の水分条件が影響しています。例えば、空気が乾燥している場合や風がある時は気孔開度が同じでも蒸散量は多くなるので、植物は無駄な水消費を避けるため気孔を閉めようとします。特に土壌水分が少ない時は水を節約する必要があります。しかし気孔を閉めてしまったらCO2の吸収ができなくなるので、その調節が大変です。植物は光合成よりも水を大切にする方向で気孔を調節しているという説もありますが、気象要素、水分条件と気孔開度、蒸散、光合成との相互関係についてはまだ詳しくわかっていません。
 ラベンダーは降雨に弱く、排水性の良い土地で生育すると聞いています。蒸散を押さえて、水分をゆっくり消費するという性質があるのかもしれません。


地球環境の変化と植物
 現在、地球温暖化、オゾン層の破壊など地球規模での環境変化が進んでいます。このような変化は自然的変化ではなく人間活動の拡大によるもので、人間の責任は重大です。地球環境の変化は人間の手で早急に解決しなければならない問題ですが、ここでは、もしこのような変化が進行したら植物はどうなるかを考えてみましょう。
 地球温暖化は、CO2などの温室効果ガスが大気中に増加し、大気の温室効果が大きくなって生じます。化石燃料の大量消費等により、現在大気中のCO2濃度は増加しつづけています。単純に考えると、CO2は植物の光合成の材料ですからその濃度が増加すると植物の光合成は活発になります。しかしそれが植物の生産量増加に直接結びつくかどうかは不明です。それより気候の変化で地域の植物相・動物相が変わることの方が重大です。もしかしたら富良野でラベンダーが生育しなくなるかもしれません。
 成層圏(上空20kmから50kmの大気)にあるオゾン層の破壊はもっと深刻です。オゾン層は太陽光の紫外線を吸収する役目を果たしていますが、現在このオゾン層が冷蔵庫や冷房に使われるフロンの放出によって破壊されつつあります。オゾン層が破壊されれば地表に到達する紫外線の量が増えます。紫外線の中で特にUV-B※2と呼ばれる波長帯は生物体に吸収されやすく、また遺伝子構成物質であるDNAやタンパク質を破壊するため、人間を含めた生物全体にとって極めて有害です。例えば、人間がUV-Bを多量に浴びると皮フがんになるといわれています。中緯度地帯では、オゾン量が1%破壊されると地上に到達するUV-Bが約2%増加すると推定されており、予断を許さない状況です。

※2.UV-Bとは紫外線の中で320〜280nmの波長帯のこと。ちなみに400nm以下のものが紫外線で、400〜320nmをUV-A。280nm以下をUV-Cという。
 
  ・・・・次回につづく・・・・お楽しみに・・・